中世絵画史料《遊行上人縁起絵》《聖徳太子絵伝》《融通念仏縁起絵》諸本にみる不具および犬神人の描写に関する予備的考察

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書誌事項

タイトル別名
  • Preliminary Consideration to Disabilities and Lepers Depicted in Medieval Pictures, “Yugyō Shōnin Engi”, “Shōtoku Taishi Eden”, and “Yūzū Nembutsu Engi” in Japan
  • チュウセイ カイガ シリョウ 《 ユギョウ ショウニン エンギエ 》 《 ショウトク タイシ エデン 》 《 ユウズウ ネンブツ エンギエ 》 ショホン ニ ミル フグ オヨビ イヌガミジン ノ ビョウシャ ニ カンスル ヨビテキ コウサツ

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抄録

従来の障害史研究は文字史料に偏っており、非文字史料を活用し切れていないという反省に立ち、障害史研究の展開における歴史図像学の援用をはかるべく、中世日本絵画史料の《融通念仏縁起絵》《遊行上人縁起絵》《聖徳太子絵伝》にみる不具や癩の描写の変化をたどり、中世日本の信仰の世界にみる障害認識の変容を明らかにすることを通して障害史研究に資することを試みた。 / まず《遊行上人縁起絵》諸本〈甚目寺施行〉にみる不具や癩の図様ないし構図の対比をおこなった。不具描写には躄跛や盲がみられたものの、いずれも乞食非人の輪の周縁に描かれており、乞食や不具の層の内部に階層性が存在することが窺われた。続いて《聖徳太子絵伝》諸本の〈無遮会〉にみる不具・癩描写の対比をおこなった。鎌倉時代以降の南都および真宗系諸本には癩描写がみられた他、南都系諸本には躄や跛の描写もみられた。最後に《融通念仏縁起絵》諸本の〈念仏勧進開始〉にみる不具や癩描写の対比をおこなった。祖本の影響が強く見られる甲系諸本よりも乙系諸本のほうが躄が早く描かれる傾向が窺われたものの、明徳版本ではさまざまな不具や癩の描写が同じ円座の下に描かれるようになる経緯が窺われた。 / 《遊行上人縁起絵》《聖徳太子絵伝》《融通念仏縁起絵》にみる不具や癩の描写は時代が下ると共に、階層性が薄れていく様相が窺われ、穢れを始めとする中世日本にみる不具・癩に対する認識の収斂と分岐が平行して生じていることが窺われた。一方、聾や瘖瘂に関する記述は文字史料には普通にみられるにも拘わらず、《融通念仏縁起絵》《遊行上人縁起絵》《聖徳太子絵伝》に聾や瘖瘂の図像を認めることはできず、不具描写にみる顕性的ないし潜性的不具図像とでもいうべき特性の違いがみられた。

収録刊行物

  • 障害史研究

    障害史研究 2 41-62, 2021-03-25

    九州大学大学院比較社会文化研究院

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