高度経済成長期における「校庭芝生化事業」の一考察 : 東京都の事例から

Bibliographic Information

Other Title
  • コウド ケイザイ セイチョウキ ニ オケル 「 コウテイ シバフカ ジギョウ 」 ノ イチ コウサツ : トウキョウト ノ ジレイ カラ
  • A study on the project of covering school ground with turf in high economic growth period : Some lessons from historical experience in Tokyo

Search this article

Abstract

type:Article

現在,校庭芝生化が多様な形態だが各地で実施されている。実は,この施策は高度経済成長期(公害が社会問題化した時期でもある)1960年末から70年代中頃まで行われたことがある。これを第一次学校緑化・校庭芝生化期と呼ぶ。この時期学校緑化・校庭芝生化事業は習志野市,鹿児島県,東京都,国(文部省)等が実施した。本論では,主に東京都で行われた「校庭芝生化」事業を分析対象とする。当時,公害は社会的な害悪として解決が喫緊の課題であった。東京都では大都市ゆえの公害,光化学スモッグ,自動車の排気ガスに含まれる高濃度の鉛被害が都民の健康を脅かした。人々は緑(樹木・緑地等)に大気浄化,空中の汚染物質の吸着効果を期待し,また緑に精神的な安らぎと希望を求めた。東京都はその解決策として公有地の道路緑化,学校緑化・校庭芝生化事業を実施した。第一次の校庭芝生化事業は学校緑化の一部としてのものであり,現在進行中の第二次ともいえる「校庭芝生化のみ」の事業と異なる。第一次の校庭の芝生が現在も維持管理・継続しているのは,二回の植え替えはあったものの鹿児島県指宿市池田小学校の一例しか確認できない。習志野市では校庭の周辺にほんの一部が残るのみである。一方,同時期に植樹された樹木は大きく育ち学校の林となり豊かな緑空間を形成している。これらの事例から校庭芝生化事業の難しさがわかる。第一次の校庭芝生化事業はいずれも失敗したといえる。この失敗の原因を探り新たな知見を提案することは,現在進行中の第二次校庭芝生化事業に役立つと考える。芝生が校庭に根付き長く生き続け,多くの人々(業者,学校関係者,保護者,地域住民等)に維持管理・継続されて初めて校庭芝生化事業の目的が達せられる。児童・生徒のケガもなく校庭で,運動でき,遊び,学ぶことができること。それが子供たちの学校での安全を保障し,環境教育に役立ち,運動能力の向上,情操教育の効果が期待できる。また周辺住民と軋轢を生みやすい土埃などの被害が軽減される。その結果,学校環境,地域の環境も守れ,何よりも地球にやさしい自然環境を提供できる場としての学校校庭芝生になるはずである。

Journal

  • 公共政策志林

    公共政策志林 5 105-118, 2017-03-24

    法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員会

Details 詳細情報について

Report a problem

Back to top