低成長,経済の国際化過程での家族経営と生活様式の変容

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タイトル別名
  • The Transformation of Family Farm and Livingstyle under Slow-growth Economy and Internationalization
  • テイ セイチョウ ケイザイ ノ コクサイカ カテイ デ ノ カゾク ケイエイ

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抄録

日本資本主義はポスト高度成長下で国内的また国際的に大きな変化を迫られ,また遂げてきた.例えば高度成長期には工業=製造業の飛躍的発展によって労働市場が著しく拡大し,また大衆消費財の国内市場拡大や労働運動による統一的ベースアップ闘争(春闘)もあって,賃金水準は全体的に上昇し,底上げされた.しかし,高度工業化社会段階に到達した日本経済はオイルショックを期に,雇用調整や賃金抑制を迫られ,重厚長大型から軽薄短小型への産業構造の再編を迫られた.そして徹底したコスト削減,省資源・省エネ対策によって国際競争力を短期間で回復し,以前よりさらに強化することに成功し集中豪雨的に輸出を拡大し,貿易黒字を稼ぐことになる.しかしそれは貿易黒字の堆積→円高→コストダウン努力→国際競争力強化→貿易黒字増大→円高の一層の進行という「悪魔のサイクル」に陥ることにもなった.円高は国内の賃金水準の相対的上昇をもたらし,賃金水準の低い地域への生産拠点の移動=資本輸出を進行させることになった.また一方でポスト高度成長下の,合理化,省資源・省エネ対策を契機とするME革命は,生産と生活の社会化を極限にまで推し進めてきた.それによって従来の労働市場の構造や,生活様式を変化させつつある.労働市場においては,高度成長期とは逆に,企業規模別や産業別あるいは雇用形態による賃金格差構造の固定・拡大が進行している.労働市場は第3次産業の展開によって拡大はしているが,パートタイム労働者の増加が顕著であり,またリストラや景気変動による労働力の解雇や流動化が頻繁に行われるようになっている.このようなことは終身雇用制や年功序列賃金制を動揺させることになりひいては労働者の企業への帰属意識・忠誠心を弱化させることにならざるをえない.このことは日本資本主義を支えた会社本位主義・法人資本主義(奥村,1995)=会社は永遠に不滅という幻想,の崩壊を意味する.このように経済の徹底した国際化,ボータレス化の進行は従来の日本経済の発展を支えてきた経済構造,さらには産業政策の構造,制度構造の改変をも迫ることになる.そしてこの貿易の自由化の進展とその黒字の拡大,またME革命による著しい技術革新は,国内農業を益々窮地に陥れることになる.円高の進行による,国内農産物の国際競争力の低下や2次,3次産業との所得・賃金格差の拡大は農業,農村からの慢性的労働力流出現象を引き起こしてきた.しかし,農村の労働力は無尽蔵ではない.また農村でも少子化現象が波及したこともあって,農業労働力不足問題が本格化し,家族経営の存続問題が発生するに至る.家族経営の再編成,サポートシステムの構築なくして農業の担い手の確保は困難になっている.とりわけ農業は地域的産業としての特質を持ち,その帰趨は地域経済,生活の問題に影響を与える.また生活様式の面では,ME革命による労働の軽量化,週休2日制の普及・拡大=労働時間の短縮,男女雇用平等や育児休業の制度化=女性の労働環境の改善など,仕事の場面の変化によってライフスタイル,特に女性のそれに大きな変化がもたらされつつある.ME化は耐久消費財の性能,利便性を高め家事労働時間の一層の節約をもたらす.かつて「主婦業」を成立させていた熟練労働としての家事はME革命によって非熟練化したし,また家事サービス業の展開はそれを外部化することを促進した.このようなME革命による労働場面での労働の軽量化・単純化の進行と家庭内における家事の技術革新と外部化による家事労働時間の減少が,主婦層の就業者化,特にパート労働者化を促進した.さらにME革命による生活の技術革新,特に冷凍冷蔵庫,電子レンジ,電子ジャーの普及は,家族いっせいの食事とその食物の分配権を握る主婦の権利と義務を無意味化し.家族の個食化を進行させている.また装置系の技術革新と家事の商品化・外部化は生活技術のない単身者のサバイバルを可能にした.つまり,生活技術の著しい非熟練化によって大都市地域での男子単身世帯の成立を容易にし,中高年の単身赴任を可能にした.生活技術の革新は家族の分裂,個族化を引き起こす要因にもなることを意味する.さらに子供に個室を与え,パーソナルユースのテレビや電話(コードレスフォン)を与えるによって,子供は家族の管理外で直接外部と通信・交渉し情報を取得することが可能になった(上野,1994,p180~185).このように生活における個別化の進行は留まることをしらないかにみえる.家族の凝集力,家族の文化,家族生活の共同性は喪われていくのであろうか.賃金・所得の格差構造は,経済の国際化の進展の中では国内の需給関係を通じて修正される可能性は少ない.農業労働や家事労働は最も価値の低い労働として序列づけられたきた.周知のようにアメリカでは移民や移動する低賃金労働力を利用して労働集約的な農業部門が成立してきた.わが国ではまだ法的に認めれれているわけではないが,一部に途上国からの低賃金労働力の導入がみられる.また農業後継者の配偶者を途上国に求めている.この路線でいけば最終的に農業生産のほとんどを海外に移転するという発想になる.またわが国でも戦前は家事使用人を農村からの出稼ぎによって調達していたし,現在既に欧米各国ではみられているように,家事労働力を途上国からの出稼ぎ労働力に依存するという発想になる.しかしそれでは南北問題の解決どころか南北格差を固定し,国際矛盾を益々激化していくことになる.

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