精神分析と父

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タイトル別名
  • Psychanalyse et pere
  • セイシン ブンセキ ト チチ

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抄録

フロイトは, ソフォクレスの悲劇に依拠したエディプスコンプレクスの最初の概念化に単純に満足していたわけではない。当時の人類学の所与に注目したフロイトは, 原始部族の父が殺害されるという「神話」によって, この概念をいわば裏打ちすることをためらわなかった。だが, ジャック・ラカンが指摘したように, これら二つのヴァージョンのあいだには明白な齪齪が存在している。すなわち, ソフォクレスの物語では, 父王の死によってエディプスが母と交わる運命に陥るのにたいし, 「トーテムとタブー』で示された神話にしたがえば, 原始部族の父の死は息子たちにいっさいの近親姦的関係の禁止を課すことになる。この矛盾は, 二つのヴァージョンのあいだでのアクセントの移動と連動していると見てよい。はじめに母親への近親姦的愛情に焦点を合わせたフロイトは, やがて父殺しにたいする罪責感という問題を強調するようになるのである。『夢判断』からモーゼについての著作に至るフロイトの歩みをたどるとき, 私たちは, エディプス理論に手を加え続けることは, フリースとの絶交のあとに理論の水準で継続されたフロイトの自己分析だったのではないかと主張したい気になる。だが, この「自己分析」において扱われなかった要素が少なくともひとつ残っている。それは, 「父の宗教」たるユダヤ教にたいする, フロイト自身の関係にほかならない。

収録刊行物

  • 人文學報

    人文學報 101 103-112, 2011-03

    京都大學人文科學研究所

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