ヴァージナルの為の「爪」

書誌事項

タイトル別名
  • ヴァージナル ノ タメ ノ ツメ
  • "Virge" fur Virgenal

この論文をさがす

抄録

1995年11月に初演。プログラムノートには次のように記した。 「この作品は本日の演奏会の為に作曲したもので,ヴァージナルの語源とも言われるVirgeという単語に掛けて「爪」という題名をつけた。余韻の短いこの楽器で演奏しうる音形はかなり限定されてしまうが,ヴァージナリスト達が開発した様々な音楽的技法を基本にしながら,彼らが用いなかった純正でない音程を混入させることで,400年前には聴くことのできなかった音を響かせる。一方ではルネッサンス音楽の基本である模倣と変奏の技法を継承することで,楽器と作品の融合を図ろうとした」 現代のチェンバロ作品は2段鍵盤の大型のチェンバロを想定して作曲されることが多いが,今回はミーントーン(中全音律)に調律したミューゼラータイプのヴァージナルで演奏することを前提に,4オクターヴの限られた音域と純正に近い和音を最大限に活用する目的で作曲した。演奏に用いたリュッカース1581年製ミューゼラーのスティーヴンソンによる複製楽器は, F~C3の44鍵に加えて独立したCと分割された2つのシャープキーに割り当てられたD・Eの3 鍵を持つもので,普段はもっばら様々なヴァージナルブックの演奏に用いているものである。また, ミーントーンはアロンのものを用いており,純正長3度を含んだ三和音は譜例1の通りで,これらは平均律のものと比較するとはるかに透明で落ち着いた響きを持つ。また,短3度は平均律より広めに設定されるため,譜例2に示す短三和音は明るい響きとなっている。これらの和音を均等に用いようとすると,必然的にモード的な扱いとなり,近代の作曲家達が新しい響きとして求めたものの正体を見ることが出来るのではなかろうか。

収録刊行物

キーワード

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ