福島原発事故における「賠償政策」 : 政府の復興方針は賠償指針・基準にどう影響を与えてきたか

書誌事項

タイトル別名
  • Compensation policies regarding the Fukushima nuclear accident: How have government reconstruction policies affected compensation guidelines and standards?
  • フクシマ ゲンパツ ジコ ニオケル バイショウ セイサク セイフ ノ フッコウ ホウシン ワ バイショウ シシン キジュン ニ ドウ エイキョウ オ アタエテキタカ

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説明

はじめに : 2011年3月の福島第一原子力発電所事故から約2年が経過し、政府が定めた東日本大震災「復興期間」10年の最終年度に入る。本稿では、同事故における「賠償政策」を取り上げ、発災後の経緯を振り返るとともに、その問題点や今後の課題を検討したい。ここでいう賠償政策とは、政府が何らかの政策的意図(損害賠償とは別の目的)をもって、賠償の額や中身をコントロールしようとすることをさす。一般に損害賠償とは、侵害された権利・法益に対して金銭的な填補を行うものであり、政府の意図とは無関係である。しかし福島原発事故では、政府が賠償に深く関与してきた。賠償政策という語は通常使用されることがないが、本稿でそれをあえて導入するのは、次の点を検討するのに有用だと思われるからである。現在、原発事故被害者による集団訴訟が全国各地の地裁・高裁で進んでいるが、そこでは国の原子力損害賠償紛争審査会(以下、原賠審)の指針、および東京電力(以下、東電)の自主賠償基準の性格をどう見るかが主要な論点の1つとなっている。民法学者の潮見佳男が指摘するように、これまでの地裁判決では、それらの指針・基準が「裁判規範」のように扱われる傾向がある。しかし指針・基準が、損害賠償とは別の政策的意図によって影響を受けているのであれば、その「裁判規範」化には大いに疑問の余地がある(潮見, 2015, 102-104頁; 同, 2018, 48-50頁)。賠償政策という視点から事故賠償の経緯を検証することは、この論点を考察するうえで重要な意味をもつ。本稿では、潮見による上記の指摘を受けて、研究上これまであまり利用されてこなかった「原子力損害賠償円滑化会議」議事録などの一次資料も用いながら、賠償政策の構造と展開過程を明らかにする。それを通じて、避難指示の解除と住民の帰還を進め、賠償を含む事故対応全体を早期に収束させていくという政府の方針が、指針・基準に強く影響を与えてきたことを述べたい。……

収録刊行物

  • 経営研究

    経営研究 71 (1), 1-16, 2020-05-31

    大阪市立大学経営学会

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