1980年代におけるピアノ教育の特徴 : 大村典子と赤沢立三による教師のための提言を中心に

書誌事項

タイトル別名
  • Characteristics of Piano Education in the 1980s : Focusing on Recommendations for Teachers of Noriko Omura and Ryuzo Akazawa
  • 1980ネンダイ ニ オケル ピアノ キョウイク ノ トクチョウ : オオムラ ノリコ ト アカザワリツサン ニ ヨル キョウシ ノ タメ ノ テイゲン オ チュウシン ニ

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抄録

1980年代になると,ピアノ学習者数がピークを迎えた。それに伴い,1980年代のピアノ教育を中心に扱った雑誌(以下ピアノ教育雑誌)では,創刊当初の1970年代に比べ,様々な教材や指導法等をテーマにした記事が散見されるようになる。しかしこのような状況の中,ピアノ教育では,「落ちこぼれ」といった学習者の現状を中心とした課題が,顕著に現れてきた。このような状況の中,「落ちこぼれ」問題に向き合い,ピアノ教育雑誌で貴重な提言を行ったのが大村典子と赤沢立三であった。さらに,ピアノ教師の在り方等について,見直されるようになったのもこの時期である。本研究は,1980年代におけるピアノ教育の特徴について,当時の学習者の状況を表している大村典子と赤沢立三のピアノ教育雑誌の記事を主な資料としている。そして,「落ちこぼれ」問題とその対応を中心に,当時のピアノ教育観を検討するものである。1980年代におけるピアノ教育の状況は,ヤマハなど大手の音楽教室の展開や,当時の「クラシック・ブーム」により,ピアノ学習者の増加,そして一般的な「おけいこごと」としていっそう広まっていった。一方でピアノ教師の状況は,1960~1970年代まで「孤立化」あったが,このような状況を打破するため,ピアノ教育雑誌発刊,ピアノ教師に対するセミナーや講演会などが開かれた。このことにより,教師は,ピアノ教育に関して情報を得る機会を増やすことができた。しかし,1980年代までにピアノ教師の指導観等が劇的に変化したとは考えづらい部分もある。そして,1980年代のピアノ教育において,浮上したのがピアノ学習者における「落ちこぼれ」の問題である。本研究では,大村典子(レッスンの友1980年12月号)赤沢立三(ムジカノーヴァ1981年11月号)の2つの記事を検討した。当時音楽教育の面で活躍していた大村や赤沢は,それぞれの教育雑誌の記事の中でピアノ教育に対して提言等を行ったものである。大村と赤沢による提言に共通するものは,以下の3点である。(1)学習者の問題を教師側の問題として認識すること(2)教師側の指導理念,教材や指導法の改善を図ること(大村は「人情面」,赤沢は「創造性」を主な視点としている)(3)教師が,総合的で豊かな音楽的知識と幅広い視野で指導すること他にもこの2つの記事の中では,海外の先端のピアノ教育についても紹介しており,ピアノ教師と保護者,学習者とのコミュニケーションの重要性などピアノ教育において不易となる貴重な提言が見られた。この2人の記事以降,大野桂など教師や専門家等を中心に,ピアノ教育雑誌では「ピアノ教師」をテーマにした記事がみられるようになり,「良い教師とは,何か」という疑問から,教師の資質・能力等の改善を求めることにつながった。このことから1980年代は,戦後のピアノ教育の歴史において,一つ転換期と捉えることができると考えられる。

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