フランツ・リスト和声語法研究 : 《憂鬱なワルツ Valse mélancolique》第2稿を例に

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タイトル別名
  • A Study of Franz Liszt’s Harmonic Grammar : A Case of 《Valse mélancolique》 2nd Version
  • フランツ・リスト和声語法研究 : 《憂鬱なワルツ Valse melancolique》第2稿を例に
  • フランツ ・ リスト ワセイ ゴホウ ケンキュウ : 《 ユウウツ ナ ワルツ Valse melancolique 》 ダイ2コウ オ レイ ニ

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抄録

本論はフランツ・リスト Franz Liszt(1811-1886)の《憂鬱なワルツValse mélancolique》を題材に、リストの和声語法を「ゆれ」の原理によってもたらされる「力性変化」と、「翳り・陽転」による「色彩変化」に着目し、和声構造というマクロの視点から明確化することを目的としたものである。本楽曲には、1839年に作曲された初稿(SW 210/SH 210a/LW-A57a)と1850年頃改訂された第2稿(SW/SH 214-2/LW-A57b)の2つの稿が存在する。Leslie Howardはこの第2稿が含まれる《3つの気まぐれなワルツ 3 Caprices-Valses》について「決してリストの最も重要な作品ではないが、魅力と独創性に満ちており無視することができない」と述べている通り、リストの主要作品とは言い難く、本楽曲を単独で取り上げた先行研究も存在しない。しかしこれらの作品にはリストの創意工夫が見られ、中でも《憂鬱なワルツ》の和声語法にはこの時期のピアノ作品に見られる調配置を理解する上で注目すべき点が散見される。本論では島岡譲(1926-)の『総合和声 実技・分析・原理』(1998)をはじめとする和声理論を用いて、詳細な和声分析を行い、「楽曲の和声構造」を「分割譜」及び「力性グラフ」に示すことで考察を行った。これによって本楽曲の和声構造を、「Iを中心とした各主題の提示」、「展開及び終止」、「大きな終止」という3部構造と分析するとともに、この楽曲全体の和声構造を形成する様々なレベルの「ゆれ」にリストの様々な手法を見出すことができた。まず「調のゆれ(転調)」は本楽曲において各部分の調の保持や機能の強調のために用いられている。中でも曲終盤でみられるドミナントの調単位の終止回避及び改め終止、D2(ov調)の調単位の拡大はリストの常套的な手法であると言える。続いて「構成音のゆれ(転位)」によって生じる偶成和音では、「Iのゆれ」によって生じるS的偶成和音と半音階的進行による偶成和音の大きく2つの用法が確認できる。特に前者のV9の低音を跳躍させることで独立和音のように露骨に用いる用法は初稿や初期作品には見られない。またこれらの「ゆれ」は「翳り」と結合されることでその効果をさらに高めている。さらに本楽曲では、様々な和音(属7の和音・減7の和音・導7の和音)による異名同音的転義が多く確認できた。これによって初期作品に多く見られる単純転義や反復進行による転調との嗜好の変化が垣間見える。また変位和音(第5音上方変位和音、第5音下方変位和音)が多用されており、和音機能レベルで各機能への指向性を高めている。本楽曲には半音階的経過和音としての本来の用法だけではなく、何の前触れもなく曲冒頭から使用する珍しい用法も確認できた。以上の様々な手法を多様に結びつけることで和声進行の曖昧さや多彩な表情が生まれ、各部分の大きな機能が形成されることが明らかとなった。これらを解き明かすことで、リストの意図する楽曲における様々なレベルの和声構造がより明確に浮かび上がるのである。

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