オリヴィエ・メシアンにおける重ね合わせの起源と《美しい水の祭典》 : 〈水と打ち上げ花火の重ね合わせ〉の意味するもの

書誌事項

タイトル別名
  • L’origine de la technique de superposition chez Olivier Messiaen et son Fête des belles eaux : ce que l’auteur signifie par «Superposition de l’eau et des fusées»
  • オリヴィエ ・ メシアン ニ オケル カサネアワセ ノ キゲン ト 《 ウツクシイミズ ノ サイテン 》 : 〈 ミズ ト ウチアゲ ハナビ ノ カサネアワセ 〉 ノ イミ スル モノ

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説明

本稿では、オリヴィエ・メシアン(1908-1992)が1937年のパリ万博のために作曲した《美しい水の祭典 Fête des belles eaux》の作品構造に関して考察を行う。この作品は、オンド・マルトノ6台のために書かれた8曲から成り、そのうち第7曲に〈水と打ち上げ花火の重ね合わせ Superposition de l’eau et des fusées〉とタイトルが付けられ、標題が作品の構造を指し示している。メシアンが作品に与えた362に及ぶタイトルの中で、唯一、作品の構造化の原理および作品の様相について言及がなされたとみなされる《美しい水の祭典》の構造をつぶさに分析し、その後1930年代の他の作品と比較することで、メシアンの作品構造に対する視点の一端を明らかにすることを目的とする。8つの小品から成る《美しい水の祭典》の作品全体の構造は明らかに計画的に設計されている。第1曲の音楽的断片は全曲にわたり繰り返し用いられ、その他の曲同士も対比する関係を持っている。第3番〈打ち上げ花火〉と第5曲〈打ち上げ花火〉は前半は同一の構造を持ち、後半は鏡合わせのように反行形を多用して作曲されており、尚且つ第4曲〈水〉と第6曲〈水〉は序奏を除くと、その他は同一の内容に過ぎない。「Superposition 重ね合わせ」の語が充てられた第7曲は、第1曲〈最初の打ち上げ花火〉で1番オンド・マルトノが奏する音楽的断片と、第2曲〈水〉の2つの音楽的断片は、第7曲〈水と打ち上げ花火の重なり〉において同時に重ねられたことで新たな響きとして知覚されるため、タイトルはその構造を十分に言い表している。続く最終曲〈最後の花火〉では、冒頭で第1曲〈最初の打ち上げ花火〉第2曲〈水〉の断片が重ねられたのち、新たな要素同士が重ね合わせられていることが明らかになった。続いて、同時期の作品構造と比較することにより、この作品でみられた「重ね合わせ」の手法が、1930年から1940年代の変遷の中でその意味を緩やかに変化させている見出された。1930年代の作品の構造を語る上で、《美しい水の祭典》は一つの転換点となる作品と言えるだろう。花火がけたたましく弾ける音や、噴水が跳ね上げる水音とともに演奏され、尚且つそのタイミングに同期させるという特殊な状況を想定して創作された《美しい水の祭典》において、作曲家が指し示す内容と作品の構造を密に連携させようと試みたことは明らかであり、「重ね合わせ Superposition」の語が用いられていること自体も、メシアンが構造について思索していたことの証左である。メシアンの作品の中で、唯一構造について明示的なタイトルを付与されたこの作品において、後期作品まで引き継がれるメシアンの音楽構造のその萌芽が確かに認められる。

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