郷土教育における歴史認識の特有性と課題 -学習者と学習対象との時間的懸隔をいかに位置づけるか-

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  • キョウド キョウイク ニ オケル レキシ ニンシキ ノ トクユウセイ ト カダイ ガクシュウシャ ト ガクシュウ タイショウ ト ノ ジカンテキ ケンカク オ イカニ イチズケル カ

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抄録

type:Article

社会的な事象を認識する際に,対象となる社会的事象ほぼすべてと認識の主体である子どもとの間には複数のチャネルにおいて懸隔がある。ごく一部の事例を除いては子どもが対象と直接的な関わりを持つことは稀だからである。言い換えれば,ほとんどの場合,子どもは間接的にしか社会的事象と関わりを持ち得ない。その点で子どもと社会的事象の間には何らかの意味で懸隔があり疎遠なのである。社会科学習というものはその懸隔を埋めることを目的とするのではなく,懸隔があることを前提とし,なおかつその懸隔に阻まれたり曇らされたりすることのない明晰な対象認識を可能とすること,そしてそれに基づいたより的確な判断や行為が可能となることを目的とするものである。 かつて筆者は学習者と学習対象とを結ぶチャネルを3つに限定し,説明を試みようとした。3つのチャネルとは,心理的チャネル,空間的チャネル,時間的チャネルである。無論3つのチャネルは相互に独立した守備範囲を持つものではなく,すべてのチャネルがほかの1つないしは2つのチャネルと重複する部分を有すること,そしてさらに3つのチャネルによってすべての社会的事象が網羅できるわけではないという制約があることなどを前提とした「暫定的な」チャネルである。 筆者の関心は認識主体であるところの児童生徒が,自己とは懸隔があり疎遠に感じられる対象についての認識を成立させるために,どのようなプロセスを取り得るのかということに中心があって,より正しくなおかつより適用範囲の広い「社会認識」なるものを成立させるために何を行うべきか,何を行うべきではないかを明らかにすることである。このことは,社会科における教材や学習活動を含めた認識プロセスの全体を対象とすることであり,教科教育学のテーマとしてはやや包括的にすぎるかもしれない。しかし,いかなる部分的な取り組みも,全体的な座標軸に位置づけられてこそ意味を持つこともまた事実であろう。それゆえに本稿においては,社会認識の成立に向けた基本的な方向性と枠組みを示した上で,学習者とは何らかの点で懸隔のあり疎遠に感じられる事象を認識するという社会認識教育の特徴を踏まえて問題を追究してきた。 研究に着手してからかなりの時間が経過しているが,このたび時間的チャネルを扱うことによって郷土教育の発展性を担保する観点を完結させることができたと考えられる。本稿ではそもそも歴史学習は何を目標としておこなわれるべきかという考察を踏まえて,歴史的事象へのアプローチの方法,歴史教材の特徴,さらに歴史学習において獲得される歴史認識の評価基準を提案することとしたい。

When children recognize social phenomenon, there are distances in plural channels between children and social phenomenon. In most case, children only have indirectly relation to social phenomenon. Therefore, social phenomenon are estranged from children. Social studies learnings are not only intended to bury the distances. Methods of the linkage among children and the learning object are important. This paper considers a method of the linkage in three channels. Three channels are psychological channel, spatial channel, and time channel. This paper suggests methods of approaches to historical phenomenon, the matter of the history teaching materials, evaluation standards of historical recognitions acquired in local education of history.

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