右片麻痺と抗重力筋の筋力低下を呈した患者に対して歩行獲得を目標に介入した症例

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タイトル別名
  • 歩行獲得のための座位・立位訓練

抄録

<p>【はじめに】</p><p>脳梗塞によって右片麻痺、左半身に運動失調、またMRSA のため個室隔離となったことで活動量低下に伴う廃用を呈した患者様を担当した。歩行獲得を目的に座位・立位訓練の結果を以下に述べる。</p><p>【症例紹介】</p><p>50代男性 独居。単身赴任中であり、家族は県外在住。現病歴はX月Y日、気分不快あり近医にて投薬。翌日、起床時に構音障害あり救急搬送となり、両側小脳、右前頭葉、左橋に梗塞巣が認められ、同日脳ヘルニアを来し開頭外減圧術を施行。 その後、発症から48 日目(1 病日目) 当院へ転院。しかし、3病日目からMRSAにより個室隔離となった。意識レベルの改善に伴い、鬱傾向となり自殺願望聞かれるなどリハビリに対して消極的で十分な介入が出来ず、長期臥床によって抗重力筋の筋萎縮による筋力低下を来たした。68 病日目より隔離解除となりリハビリ室での訓練開始。解除時の評価としては右半身麻痺(Br-S: II)、右上下肢の表在覚と深部覚鈍麻(6/10)、体幹の筋出力低下(GMT2)。ADL 動作は概ね最大介助を要し、FIM は運動項目32 点だった。</p><p>【介入方法】</p><p>座位は骨盤後傾しており、物的支持がなければ後方へ倒れてしまう状況であった。ヒトは直立二足歩行であり、立位や歩行の安定性を向上させるには骨盤後傾位の姿勢を改善する必要があると考え、大腰筋を中心に強化した。その為、骨盤が前傾しやすいよう環境調整を行い大腰筋の賦活を促した。立位では左側優位の荷重で体幹は屈曲しているが、内部観察では「真っ直ぐ立ってる。左の手足がかなり力んでる。よく考えたら自分の身体の事がよくわからん。」との発言あり、感覚障害によりフィードバックが上手くできないことで自己身体の認識が出来ていないのではと考えられた為、認知神経リハビリテーションを用いて本人が認識しやすい情報を使用する事で麻痺側の身体イメージの再構築を促した。</p><p>【結果】</p><p>2週間の介入で、体幹の筋力はGMT 2から4まで向上。座位姿勢は安定し、立位における体幹の支持性も向上したことで今後実施する歩行の安定性にも繋がった。立位は正中位付近での保持が可能となり改善認められた。内部観察では「しっかり立てている。前と比べて左側の力が抜けている」と発言聞かれ、外部観察との差異に改善認められた。麻痺側への荷重がしっかりできるようになった事で、起立、移乗動作は全介助から監視レベルとなり、FIM は運動項目48 点まで改善した。</p><p>【考察】</p><p>長期臥床で姿勢の保持と歩行に関係する抗重力筋の筋力低下が著明に認められ、3 ~ 5 週間で50%低下するとの報告されている。また、ヒトの大腰筋の赤筋線維は48%を占め、チンパンジーと比較すると2倍近い差があり直立二足歩行に大きく関与しているといわれている。今回、大腰筋を賦活する為、骨盤後傾位の姿勢を環境調整しながら訓練を行った。その結果、座位は骨盤の後傾が改善され、体幹伸展し脊柱起立筋などの賦活にも繋がり立位姿勢も改善したと思われる。次に、片麻痺患者では体性感覚の求心性情報の欠如が運動の認知過程を変質させるとされ、患者が認知しやすい情報を使用することで身体イメージを再構築し、行為の改善を図った。本症例では各関節の位置情報や足底圧情報の認識は可能であった為、これらの情報を使用し身体イメージの再構築できたことで行為が改善したことで、内部観察と外部観察の差異が少なくなった考えられる。また、今回短期間での筋出力改善が認められるが身体イメージの再構築による認知過程の改善も関与していると考える。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究をするにあたり、ヘルシンキ宣言に則って患者に研究の趣旨を説明し、発表にあたり個人が特定出来ないよう配慮した。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390290958069643904
  • NII論文ID
    130008154588
  • DOI
    10.32298/kyushupt.2021.0_25
  • ISSN
    24343889
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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