ジョウゼフ・コンラッド『チャンス』における一貫性・結束性・社会的現実

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  • Coherence, Cohesion, and Social Reality in Joseph Conrad’s Chance

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抄録

本稿では,応用言語学におけるウィドウソンの一貫性(coherence)と結束性(cohesion)の概念およびサールの社会的現実(social reality)の理論を援用し,ジョウゼフ・コンラッドの小説『チャンス』を分析する。コンラッドの小説のうち,マーロウを語り手とする物語群は,その語りの複数性および重層性から,分析哲学,特に言語行為論や社会的現実を援用した解釈に適している。これまで著者たちはこれらの理論を援用し,マーロウを語り手とする物語を分析してきたが,本稿もその一連の論考の一つである。 本稿は三部構成となっており,第一部では『チャンス』の複雑な構成を分析するため,一貫性と結束性の概念を使用し,本作における空間上および時間上の結束性について論じる。これと関連して本作の創作過程や,架空の登場人物マーロウの登場する他の三作品との結びつきに焦点を当てる。第二部では,サールによる制度的事実(institutional facts)と生の事実(brute facts)の区別を援用し,『チャンス』におけるお金の特異な性質と金融の役割を探る。この小説に登場する架空の銀行スキャンダルと,銀行家ド・バラールを,本作の創作の元となったと思われる実際のスキャンダルと銀行家と対照させつつ論じる。最後の第三部では,『チャンス』を多読教材(graded readers)化することの可能性を考察する。マーロウを語り手とする物語群における『チャンス』の価値を概観すると同時に,21世紀の言語学習者にとっての問題点を指摘する。

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