カナダのOAS制度とその持続可能性について

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抄録

<p> カナダの公的年金保険制度は、定額給付のOAS(Old Age Security)制度と、報酬比例給付を行うカナダペンションプラン(Canada Pension Plan; CPP) / ケベックペンションプラン(Quebec Pension Plan; QPP)から構成されている。このうち1952年に導入されたOAS制度は、憲法による連邦政府の権限の制約やミーンズテストの不評等の歴史的経緯から税財源によるミーンズテストなしの給付を行っているが、現在のその水準はわが国の基礎年金と比較するとかなりの高い水準となっている。1966年にCPP/QPPが導入されたときに、その恩恵に浴することができない国民に対し、OAS制度に所得補償補足年金(GIS)給付を設けたことにより給付水準が引上げられたからである。そもそもCPP/QPPが導入されたのは、当初のOAS給付だけでは水準が低過ぎ、現役時の収入との乖離が大きく、現役時の収入をある程度反映する所得比例給付を導入すべきであるという国民の要望に応えたことによるもので、しかしながらCPP/QPP制度からあまり給付を受けられないという者も存在することから、それらの者に対する十分な所得補償を行う目的でOAS制度の中にGIS年金が設けられた。</p><p> OAS年金は国民の約96%をカバーしており、GIS年金を合わせると給付水準はわが国の基礎年金に比べてかなり高いといえる。一方で、この水準は将来においても維持できるかどうかは大きなテーマであろう。当稿においては、このOAS制度の持続可能性について、カナダの政党や有識者はどのように見ているかの現状を調べた。カナダの人口の高齢化率はわが国に比べてまだまだ低いが、今後現在のわが国程度までは高齢化が進むことが見込まれている。したがってOAS給付の規模も今後膨らむことが見通される。それは将来にわたって問題なく給付を続けていくことができるのか、あるいは、どこかで大きな制度改革をしなければならないのか、という課題に直面している。この点について、カナダ保守党とカナダ自由党の見解は分かれている。保守党はこのままでは持続可能ではないと考えており、自由党は持続可能であると考えている。それは2012年~2015年のOAS制度の支給開始年齢の引上げを巡る攻防となって表れた。これらの論戦をまとめておく。</p><p> OAS給付は基本的に消費者物価指数に応じてスライドされることになっている。賃金スライドではないので、これがOAS制度の持続可能性にゆとりをもたらしている面はあるが、その分徐々に給付水準が下落することになり、放置すれば給付の十分性が失われる事態を招くであろう。カナダの今後の動きに注目したい。</p>

収録刊行物

  • 年金研究

    年金研究 18 (0), 31-49, 2022-03-10

    公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390291767580946944
  • DOI
    10.20739/nenkinkenkyu.18.0_31
  • ISSN
    2189969X
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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