古天気を利用した天保期の推定日射量分布の変動

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  • Variability in the Distribution of Solar Radiation Using Historical Weather Descriptions During the Tempo Famine Period

抄録

<p>気候変動が人間社会に与える影響については,歴史学においても,将来の気候変化への対応においても重要な課題である。気象観測開始より前の気候要因と社会および経済状態との連関を論じるためには,年よりも時間解像度の高い気候変化を空間パターンの時系列として示す必要がある。日本では毎日の天候記録を含んだ古文書が数多く残され,気候復元に利用されている。そこで,本研究では,天候不順などの異常天候による気候災害と社会への影響の議論に有用な,ある1年ではなく複数年にわたる,連続した空間分布をもつ気候要素の復元を試みた。天気の良し悪しと密接な関係にある気象変数として日射量を考え,天保の飢饉があった1830年代を含む1821年から1850年の30年間について,日記に含まれる天気記録から複数地点の月平均日射量の空間分布を推定した。定性的な天気記録から日射量を推定するため,まず,現在の天気の観測として気象庁の天気概況と全天日射量の関係から作成された推定方法を古日記の天気記録に適用した。日射量は植物の生長への寄与が大きい気象要素の一つであり,その変動は農作物の収量等にも影響する。そこで,1833年,1836年,1838年の月平均日射量推定値の30年平均値に対する割合による日射量の空間分布および季節進行を基に稲作への影響を議論した。1833年は6月に西日本で平年より日射量が高いが,7月は低い。8月は東日本から北日本で低いが,西日本では北九州をのぞき,平年かそれ以上である。1836年は,5月から9月の日射量が平年値より低い地点が多い。特に,7月,8月の関東から九州北部までが平年値を下回っており,関東では10%を下回っている。1838年の夏季は1836年と同様に関東以西で平年より低いが,1836年とは異なり,5月,9月は平年並かそれより高い。3年の夏季において、日射量の低下が米の収量へ影響した可能性が示された。さらに,1836年は,1月に関東以北で平年並みかそれより高く,萩,津山,伊勢で平年以下であり,寒冬の可能性がある。3月,4月,10月は全国的に高いが,11月は近畿から関東で低い。1836年は,夏季の日照不足の長期継続に加え,平年からの変動が大きく,春先から晩秋まで異常天候であった年と示唆され,1837年まで続く大阪米価の異常高騰とも整合性が得られた。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390291767745523840
  • DOI
    10.14866/ajg.2022s.0_129
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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