人口移動が日本の人口分布と人口構造に与えた影響

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  • Rural-urban migration effects on population distributions and structures in Japan
  • —2005年SSM調査を用いた分析—

抄録

<p>はじめに</p><p> 戦後日本では大規模な人口移動が生じ,大都市圏と非大都市圏それぞれに多くの影響を及ぼしてきた.本研究は,大都市圏と非大都市圏1)の人口の規模や構造に及ぼす人口移動の影響について,2005年「社会階層と社会移動調査」(以下,SSM調査)の結果を用いて検討するものである.</p><p> これまで日本の人口地理学では,大都市圏と非大都市圏間の人口移動に大きな関心が寄せられてきた(石川2001など).それに対して,両地域の人口に及ぼす人口移動の影響については,人口の増減や再生産への影響(鎌田ほか2022など),あるいは移動者の属性(清水2019など)を除いて,必ずしも十分な関心が払われてきたわけではない.その一因として,移動者であるかどうかを識別できる調査データの利用の困難さがあった.</p><p> そこで本研究では,過去の居住地の履歴に関する地理情報を含む全国規模で実施された社会調査の個票データを用いることで,日本の大都市圏と非大都市圏の人口の規模や構造に及ぼす人口移動の影響を分析した. </p><p></p><p>データと方法</p><p> 使用したデータは,「社会階層と社会移動調査研究会」が2005年に実施したSSM調査の個票データである.同調査は,日本全国在住の20歳以上70歳以下の男女個人を母集団として層化二段確率⽐例抽出で選ばれた標本(n=5742)を対象としている.同調査の質問項目に含まれる「15歳居住地」,「就学地」,「就業地」および「現住地」の地理情報(いずれも都道府県を単位とする)をもとに,大都市圏残留者(UU),非大都市圏残留者(RR),大都市圏から非大都市圏への移動者(UR),大都市圏還流移動者(URU),非大都市圏から大都市圏への移動者(RU),非大都市圏還流移動者(RUR)の計6移動類型に分け,男女別出生コーホート別に分析を行った.</p><p></p><p>結果</p><p> 分析の結果,主として以下の3点が明らかになった.第1に,両地域における移動者の規模が明らかになった.具体的には,大都市圏居住者に占める「UU」の割合は72.7%,「RU」の割合は22.1%,「URU」の割合は5.2%,また,非大都市圏居住者に占める「RR」の割合は79.2%,「UR」の割合は4.8%,「RUR」の割合は16.0%であった.</p><p> 第2に,両地域の人口構造に関しては,同居家族の数,配偶関係,子供の数,教育歴,従業上の地位,職業,住んでいる住宅の種類,中学3年の時の成績,について検討した.このうち,職業については,両地域ともに,残留者に比べて移動者でホワイトカラーの割合が高く,ブルーカラーの割合が低いことが示された.</p><p> 第3に,職業に関して,世代間の階層移動の視点も加味してさらに検討を加えた.その結果,職業の世代間階層移動と人口移動には一定の関連がみられた.例えば,親の職業がホワイトカラーの場合,子の職業もホワイトカラーになる傾向が認められ,それは残留者よりも移動者に顕著であった.そのため,職業の世代間階層移動と人口移動とが相まって,大都市圏で非大都市圏よりもホワイトカラーの割合がいっそう高くなる傾向が生じることになっていたのである.</p><p></p><p>※ 本研究は,牧野の2021年度早稲田大学教育学部卒業論文に加筆修正を加えたものである.研究に際して,東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターSSJ データアーカイブから「2005年SSM日本調査」(2015SSM調査管理委員会)の個票データの提供を受けた. </p><p></p><p>注</p><p>1) 本稿では,東京・埼玉・千葉・神奈川・愛知・岐阜・三重・大阪・京都・兵庫・奈良の各都府県を大都市圏,上記以外の道県を非大都市圏とした.</p><p></p><p>文献</p><p>石川義孝 2001.『人口移動転換の研究』京都大学学術出版会.</p><p>鎌田健司・小池司朗・菅桂太・山内昌和 2022. 都道府県別にみた人口増加率の要因分解:1950~2015年 (1)総人口の分析結果.人口問題研究 78-1:240-264.(印刷中)</p><p>清水昌人 2019. 非大都市圏に居住する大都市圏出身者の特性. 人口問題研究 75-3:169-191.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390291767745525760
  • DOI
    10.14866/ajg.2022s.0_130
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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