非エルミート系における例外点のトポロジーと対称性

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  • Symmetry and Topology of Exceptional Points

抄録

<p>物理現象を統一的に理解するうえで,対称性は重要な役割を果たす.よく知られているように,強磁性体では高温で常磁性相が見られ温度を下げると強磁性相へと相転移する.強磁性相ではマクロな数のスピンの向きが揃い,この相転移はスピン空間での回転対称性の自発的な破れで理解できる.このような自発的対称性の破れに基づく議論は強誘電体や超伝導体にも適用され凝縮相の普遍的な理解を提供している.</p><p>一方で,磁場下の二次元電子系である量子ホール系では対称性は自発的に破れない.これらの系を理解するためにトポロジーという数学的概念を用いて区別されるトポロジカル相が提案され,活発に研究されている.トポロジカル相は自発的対称性の破れに基づく議論の枠組みから外れているが,そのような系でも対称性は重要となる.特に,対称性で多様化したトポロジーによって摂動に対して安定な種々のバンド構造が理解できる.例えば,HgTeの量子井戸で発現するトポロジカル絶縁体では試料端で摂動に対して安定な表面状態が見られる.この端状態は時間反転対称性で護られている.また,炭素原子の単一層であるグラフェンはトポロジカル半金属の一種であるが,そこではバルクのバンド構造に線形分散をもつディラックコーンが見られる.このトポロジカルバンド縮退もカイラル対称性で護られているため摂動に対し安定である.</p><p>以上は自由電子系で見られるトポロジカルなバンド構造であるが,光学系や古典力学系でも同様の議論が成り立つことも明らかとなっている.これらのトポロジカルなバンド構造の議論に共通するのは系がエルミートなハミルトニアンに対する固有値問題として記述される点である.</p><p>以上の発展の一方で,ここ数年でハミルトニアンが非エルミートになる場合のトポロジカルなバンド構造の研究もなされている.通常,量子力学の講義で学ぶような議論はハミルトニアンをエルミートであるとして行われる.このため特に量子系で非エルミートな場合を考えるのは物理的でないと考えるかもしれない.しかし,散逸のある開放量子系ではハミルトニアンが非エルミートとなる.散逸のある光学系や古典力学系の議論でも同様である.さらに,平衡状態にある強相関電子系の一粒子励起スペクトルでも非エルミートなバンド構造が提案されている.これは準粒子が有限の寿命をもつことに起因する.</p><p>興味深いことにこれらの非エルミートな系のトポロジーは通常のエルミート系にはない特有のバンド構造を誘起することが明らかとなってきた.その典型例として例外点が挙げられる.例外点はバルクのトポロジカルバンド縮退の一種であるが,そこではハミルトニアンが対角化不可能であることに起因してエネルギーバンドの実部,虚部の両方においてバンド縮退が起きる.通常のエルミートなバンド構造の研究を振り返ると,対称性が非エルミートな系のトポロジーを多様化することが期待される.</p><p>我々は対称性に注目して非エルミートなバンド構造を議論することで,対称性に保護された例外円,例外面の存在を理論的に明らかにした.また,平衡状態の強相関電子系や散逸のある古典力学系における発現の可能性も議論した.古典力学系ではパラメータの調節が比較的容易であるため対称性に保護された例外円の実験的観測が期待でき,ひいては非エルミートなバンド理論の工学的応用も期待される.さらに非エルミートなトポロジーは長年研究がされてきた強相関系において新しい視点を提供する.特に,近藤絶縁体SmB6で最近報告されている量子振動や銅酸化物超伝導体における擬ギャップなどの未解明の問題への新たなアプローチとなり得る.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 77 (4), 222-227, 2022-04-05

    一般社団法人 日本物理学会

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390291767873889920
  • DOI
    10.11316/butsuri.77.4_222
  • ISSN
    24238872
    00290181
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • KAKEN
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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