新型コロナウイルス感染症関連プレプリントの公開動向とその影響:探索的事例検討

DOI
  • 井出 和希
    大阪大学感染症総合教育研究拠点 大阪大学社会技術共創研究センター (ELSIセンター)
  • 小柴 均
    文部科学省科学技術・学術政策研究所

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抄録

<p>【目的】未査読の学術論文を公開するための手段として、近年、医学・薬学領域においてもプレプリントの活用が進んでいる。一方、専門家による審査を経ていない論文が他の研究や社会に対して及ぼす影響については懸念も生じている。そこで、具体的な事例について検討し議論の基礎となる情報を供することを目的として、公開動向を調査すると共に事例を分析した。</p><p>【方法】公開動向の調査対象期間は2020年1月から9月とした。プレプリントの公開媒体としては、arXiv、ChemRxiv、medRxiv、bioRxiv、Social Science Research Network(SSRN)、Preprints with The Lancet(SSRNの一部であるが、医学系研究に焦点を絞ったプラットフォームであるため区分した)を対象とし、時点ごとの累積公開数を算出した。併せて、現在までの期間に他の研究や社会に対して顕著な影響を及ぼしたと考えられる事例を抽出し、その具体的な内容を整理した。</p><p>【結果・考察】1月末時点で39件、3月末時点で1,827件、6月末時点で10,010件、9月末時点で16,066件のプレプリントが公開されていた。公開件数は経時的に増加しており、新型コロナウイルス感染症の拡がりと共に迅速に知見を共有する目的で広く活用されたものと推察された。また、特徴的な事例として、初期にはYangらがmedRxivにおいて公開した中国における疫学情報についてのプレプリントが公開後に取り下げられた。一方、2021年9月末時点で修正稿は公開されていない。なお、同プレプリントはLancet姉妹紙等でも引用された。また、ElgazzarらがResearch Squareにおいて公開したイベルメクチンの作用に関する臨床研究の結果についても取り下げられ、現在も調査は進行中である。この成果については非専門家向けのメディアにおいても報道が為された。</p><p>【結論】2020年1月以降、新型コロナウイルス感染症に関連するプレプリントの公開件数は1万5000件以上に及んでいた。影響についても鑑みると、出版に係る規定の見直しや取扱いについてのステークホルダー間のコンセンサス形成が必要であると考えられた。</p>

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