デイヴィッド・マスランカのサクソフォーン作品の解釈に向けて : 委嘱者・初演者の証言から見えるもの

書誌事項

タイトル別名
  • A Note to Interpret David Maslanka's Saxophone Works : Interviews with Players who Commissioned or Premiered David Maslanka's Saxophone Works
  • デイヴィッド ・ マスランカ ノ サクソフォーン サクヒン ノ カイシャク ニ ムケテ : イショクシャ ・ ショエンシャ ノ ショウゲン カラ ミエル モノ

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抄録

本稿はデイヴィッド・マスランカDavid Henry Maslanka(1943年8月30日-2017年8月6日)のサクソフォーン作品を演奏する際の解釈の一助とするため、委嘱、初演に関わった奏者のうちRussell Peterson、Joseph Lulloff、Jordan Lulloff、雲井雅人サックス四重奏団、Jason Kushに対し、作品成立の経緯や彼が演奏に特に強く求めた表現についてインタビューした記録を整理するものである。マスランカのサクソフォーン作品は14曲あり、国内外のコンクールの課題曲として選ばれたり、プロフェッショナル、アマチュア奏者問わず多くの演奏会でも取り上げられたりするなど、サクソフォーン奏者にとって重要なレパートリーの一つとなっている。尚、サクソフォーン作品はHeaven to Clear When Day Did Close (1981)及びSonata for Alto Saxophone and Piano (1988)以後、後年に作品が集中している。マスランカ後年のサクソフォーン作品は、静寂部分が目立ち、音の数が少ない傾向をもつ。その中で技巧的な箇所が減っている一方、フェルマータやブレスマークの多用、Hold Back、Wait、Long等の指示、テクスチュアの薄さから露わになる音質などについては記譜から明確に読み取ることが困難で、奏奏者に委ねられるために演奏解釈が難しい。これに対し、奏者は何を拠り所に演奏解釈を構築したらよいのだろうか。本稿ではまず、インタビューを元に委嘱の経緯及び初演に関する証言を整理した。Russell Petersonの証言からMountain Roads (1997)について、Joseph LulloffとJordan Lulloffの証言からConcerto for Alto Saxophone and Wind Ensemble (1999)、Concerto for Alto Saxophone and Orchestra (2008)及びTone Studies (2010)について、Jason Kushの証言からOut of this World (2013)についての委嘱の経緯が明らかになった。また雲井雅人サックス四重奏団の証言からはRecitation Book、Songs for the Coming Dayの委嘱の経緯及びPeace、《ゴルトベルク変奏曲》の献呈について明かされた。次に、インタビューの中からマスランカが求めた音楽表現に関する証言を抽出し、類似した内容毎に分類した。この分類から、初演者・委嘱者たちのマスランカと関わった時期や曲などの状況は異なるものの、マスランカから受け取った表現への要求には共通の内容が存在することがわかった。さらに本稿ではこれらを、精神的境地に関するものと時間に関するものの2つに大別した。今後は本稿で整理した証言を足がかりに、マスランカが奏者に特に求めた音楽表現についての意図やそれに至った背景についても総合的に考察する必要がある。奏者の証言と彼自身の思想の変化についての総合的考察を行い、マスランカの意図を反映したよりリアルなサクソフォーン作品の解釈へと繋げることが今後の課題として残った。

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