F. F. ショパンのテンポ・ルバートにおける初期様式 : 《ノクターン》変ホ長調 作品9-2の分析による実践的研究

書誌事項

タイトル別名
  • Chopin’s Early Style of Tempo Rubato : A Practical Study by the Analysis of The Nocturne in E-flat Major, Op. 9 No. 2
  • F. F.ショパン ノ テンポ ・ ルバート ニ オケル ショキ ヨウシキ : 《 ノクターン 》 ヘンホチョウチョウ サクヒン 9-2 ノ ブンセキ ニ ヨル ジッセンテキ ケンキュウ

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抄録

本研究は、ショパン Fryderyk Franciszek Chopin(1810-1849)のテンポ・ルバート(以下ルバート)の初期様式について考察したものである。研究対象は、声楽由来という点で共通する《ノクターン》において、ショパンが初めてrubatoと記した同変ホ長調 作品9-2とし、音楽表現を踏まえた分析による実践的研究とした。本論の構成としては以下の通りである。 「1. 序」では、ルバートの歴史的変遷と、その中でのショパンの位置づけ、問題提起、そして研究目的を示した。ルバートは、時代によって大きく意味が異なり、大凡1800年を境に前期タイプと後期タイプに二分される。前者は、一定のテンポが保たれた伴奏の上で旋律を自由に変化させる方法であり、1723年、トージ Pier Francesco Tosi(1654-1732)によって初めて言及され、後者は、音楽構造全体を同時に動かす方法であり、C. カルクブレンナー Christian Kalkbrenner (1755-1806)等によって説明された。そういった歴史の中で、ショパンは鍵盤楽器作品にrubatoを指示した最初期の作曲家であり、そのどちらのタイプも用いていた。従って、「2. 先行研究」ではそれらのタイプについて整理した。つまり、前期タイプでは、先取と遅延、ポリリズム、そして旋律に沿って伴奏のテンポも変化させる形、後期タイプでは、テンポ変化を意味する指示による埋め合わせ方式、非埋め合わせ方式といった具体的な方法が挙げられる。しかし、音楽を専門とする者の中でも、ルバートは「単なる揺れ」といった認識に留まることが多く、これらの本質的な概念との間に生じるズレが、ルバート研究への理解が進まない原因の一つと推察される。次に、「3. 《ノクターン》変ホ長調 作品9-2におけるルバート分析」では、「2. 先行研究」を基に作品9-2において、ルバートと関連する部分を取り上げ、その書法や、音楽表現について考察を行った。すると、それぞれのタイプや方法によって使われる場所、目的等が異なり、ショパンがはっきりとした意図をもってルバートを使用していたことが明らかになった。そのことからも「4. 結」で三つのことを主張した。一つ目は、ショパンが初期様式として既に多様なルバートの方法を用いていたということ、二つ目は、ショパンのルバートには先行研究において取り上げられていない形もあるということ、そして三つ目は、《ノクターン》がルバートと結びつきの強いジャンルであるということである。ショパンのルバートに関する先行研究は、殆どが弟子の証言等から広範に述べられるものや、録音等による演奏解釈をめぐるものに留まっており、詳細に分析した内容をもつものは非常に少なく、研究の余地が大いに残る。従って、本研究は一つの作品に焦点を絞り、詳細に分析することで、その初期様式を解き明かす第一歩となった。

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