空間反転対称性の破れた結晶における整流現象

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タイトル別名
  • Rectification Effect in Noncentrosymmetric Crystals

抄録

<p>整流現象とは,固体中のある方向へ電流を流す場合に,正の方向と負の方向で電流の流れやすさ(電気伝導度)が異なる現象のことである.p型半導体とn型半導体を接合させたpn接合や金属と半導体の界面において実現される整流効果がよく知られている例であろう.これらの場合には,接合(界面)部分において並進対称性が破れており,それによって整流現象が許容される.一方で,均質な一つの固体中において,このような整流現象が生じるかどうかは必ずしも自明ではない.一般に,固体中で整流現象のような非対称な電気伝導を実現するには,空間反転対称性の破れが必須であるが,それだけでは不十分である.並進対称性のある結晶中では電子はバンドを形成しており,時間反転対称性が存在すると,結晶運動量が逆符号のエネルギー固有状態同士は関係づけられて(Ek)=E(-k))エネルギー分散関係から導かれる波束の群速度も対称になってしまうため,1電子近似や緩和時間近似のもとでは電気伝導が対称になってしまうためである.</p><p>そのため,磁場印加や磁性による時間反転対称性の破れや電子相関,非対称な散乱の効果等を考慮することによって初めて,結晶中での整流現象が理解されることになる.近年,実際にそのような均質な結晶中における整流現象である非相反伝導現象が続々と発見されており注目を集めている.この結晶の空間反転対称性の破れを反映した整流現象は,電子バンドの詳細な構造や幾何学的性質,電荷・スピン・軌道といった量子自由度の結合,電子相関や散逸とも密接に関連しており,それらをより深く理解するうえで重要なツールとなりつつある.また,このような整流特性は,それ自体が興味深い物性であるばかりでなく,物質が固有に持つ特性であるため,半導体だけでなく特徴的電子状態を持つ(半)金属や様々な量子相で発現し得る点もユニークな点である.</p><p>最近我々は,様々な空間反転対称性の破れた量子物質において磁場下で生じる(磁場で符号が反転するような)整流効果を探索し,その微視的機構や特徴的振る舞いを明らかにした.整流現象が電子バンドのスピン軌道相互作用といった物質の電子状態を特徴づけるパラメーターを定量的に評価する手法になり得ることを見出すと同時に,この現象が超伝導相でも生じることを発見した.超伝導の整流現象は,空間反転対称性の破れた超伝導体において普遍的に生じる効果であると期待され,超伝導の対称性やボルテックスのダイナミクス等に関して有用な情報を提供してくれるだけでなく,電流の正負によってゼロ抵抗と有限抵抗が切り替わるような超伝導ダイオード効果の原理ともなり得る.</p><p>このように,空間反転対称性の破れた結晶に特有の整流現象の研究は,その対象を広げながら発展し続けており,今後,様々な量子物質や量子相において,この非相反伝導現象による電子状態や素励起ダイナミクスの理解が進展するものと期待される.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 77 (7), 475-480, 2022-07-05

    一般社団法人 日本物理学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390292706070715776
  • DOI
    10.11316/butsuri.77.7_475
  • ISSN
    24238872
    00290181
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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