筋電信号に基づく手指ピンチ力推定の検証

書誌事項

タイトル別名
  • Estimation of Finger Pinch Force Based on Surface Electromyography

説明

<p>厚生労働省の平成28年生活のしづらさなどに関する調査結果によると,上肢の切断や機能障害による上肢不自由者は日本に60万人以上存在する1).上肢である手や指は日常生活において多くの活動に関わる重要な器官であり多くの役割を担っている.そのため上肢不自由者は上肢の機能を補完する補装具を使用する.その中でも義手は上肢不自由者のうち,上肢切断患者が失った手の見栄えや機能を補うために用いられる.義手には主に装飾義手,能動義手,筋電義手がある.装飾義手は人の手のような見た目をしているが,義手の手や指を動かすことは出来ず,義手を用いて作業を行えない.能動義手は機能性に特化しており,義手を操作して作業を行えるが,見栄えが悪く,また,義手の操作に上半身の動き等を対応させているため,使用時に姿勢の制約がある.これらに対して筋電義手は,腕に残存する筋肉が収縮する際に発生する電気信号である筋電(EMG)信号を,皮膚表面に貼付した表面電極より計測し義手の制御に利用することで,見栄えがよく,機能的で姿勢の制約が小さい義手を実現している.これらの利点により,筋電義手は大変注目されており,開発や研究が進められている.</p><p>筋電義手の高機能化に重要な事項として義手の力制御が挙げられる.人が日常生活において握りやつまみの動作を行う際には対象の物体の重さや硬さに応じて指先に加える力を調節している.上肢切断患者が同様の動作を行う場合には義手を用いて指先の力を調節する必要があり,その際には動作時に指先に加わる力を筋電信号に基づいて推定しなければならない.筋電信号に基づいて力の推定を行う研究としては,サポートベクターマシン(SVM)やニューラルネットワーク(NN)を適用したものが存在する2),3).しかし,これらの多くは学習に時間を要し,学習結果が収束しない場合や局所解となる場合がある.これに対し,Huangらによって提案されたフィードフォワードニューラルネットワークの学習アルゴリズムの一つであるExtreme Learning Machine(ELM)は従来のフィードフォワードニューラルネットワークとは異なり,入力層への重みとバイアスを調整する必要がなく,入力層への重みとバイアスを任意に選択することで小さな誤差で素早く学習を行うことを可能にしている4).</p><p>本研究ではELMを適用して筋電信号に基づいて指先に加わる力(つまみ動作時のピンチ力)の推定法を提案し,ほかの手法(SVM)を用いたピンチ力推定の結果と比較し,その性能を評価した.性能の評価には3つの指標(二乗平均平方根誤差RMSE,学習時間,推定処理時間)を用いた.</p><p>その結果,推定の誤差RMSEは学習データに対してELMで3.37-4.11[N],SVMで1.70–2.26[N],テストデータに対してELMで3.43-4.73[N],SVMで3.10–3.39[N]であり,すべての被験者の学習データとテストデータの両方に対して,ELM適用時よりもSVM適用時の方がRMSEは小さくなった.</p><p>また,学習時間と推定処理時間はそれぞれELMで7.30×10-2-1.38×10-1[s],4.51×10-3-1.35×10-2[s],SVMで52.47-485.49[s],1.35-18.25[s]となり,すべての被験者においてELMを適用することによりSVMよりも学習,推定ともに短時間で行うことが可能であった.</p>

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