EL-2: 脂質の量と質に視点をおいた栄養臓器メタボダイナミズム と治療戦略

  • 島野 仁
    筑波大学医学医療系内分泌代謝・糖尿病内科

抄録

脂質というと臨床的には肥満や血中脂質で議論が終始することが多い<br> しかし本来生体脂質は、細胞膜の構成成分あるいはエネルギー貯金通貨として様々なバイオロジーにおいて重要な 生体のプラットフォームないし修飾因子として役割を担っている. 特にあらゆる脂質種に含まれる脂肪酸の機能は, 生体膜, シグナル, エネルギー蓄積, バリヤーなど広範にわたる. 脂肪酸組成は, 脂肪酸鎖の不飽和度と鎖長のコ ンビネーションで各複合脂質の多様性を織りなす. この脂質多様性は細胞内オルガネラの構造と機能の特異性をう み, 発生, 分化, 老化, 疾患病態の臓器多様性の一端を担う.<br> 我々は脂質の合成を支配する転写因子SREBP による臓器脂質 : コレステロール とトリグリセリドの量的制御がも たらす様々な臓器や疾患のメタボ病態を解析してきた (Nat Rev Endocrinol 2017). 特にコレステロールによる Sterol Regulation とは対照的な, 多価不飽和脂肪酸によるSREBP-1c の制御機構の新知見を紹介する. SREBP-1c 切断活性化を介してlipogenesis や膜の流動性やストレスを制御する因子を見出した. 一方, 脂質の質の制御とし て脂肪酸の多様性を鎖長の視点, それも脂肪酸伸長酵素Elovl6 が制御する炭素鎖C16, C18 という極めて特定の 脂肪酸鎖長が, 栄養代謝, 再生, 炎症, がん, 細胞ストレスなど広範な生物学的病態に重要な影響をもたらすこと を示してきた.<br> 本講演では, 最近の脂質研究の潮流を紹介するとともに, 臓器脂質の量と質に視点をおいた様々な疾患の治療戦略 の一端としてNASH やIBD など栄養臓器における展開を述べながら, 今後の病態研究の方向性を探ってみたい. 多様な脂質が創り出すマルチモーダル情報を『脂質コード』として包括的に定義し, 複雑かつ精巧な生命システム における脂質コードの意義を理解することが, 今後の研究において重要と感じる. そのnew modality には新しい 視点や手法が必要であり, 新規lipidomics, コンピューター構造解析, ラマン解析, オルガネラ生物学の可能性に 期待したい.<br>

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