Tarkajvālāの規定する<i>madhyamaka</i>について――パーニニ文法学の視点から――

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タイトル別名
  • The Term <i>madhyamaka</i> as Explained by the <i>Tarkajvālā</i>:From the Point of View of Pāṇini’s Grammar
  • The Term madhyamaka as Explained by the Tarkajvala : From the Point of View of Panini's Grammar

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抄録

<p> バーヴィヴェーカ(Bhāviveka, ca. 490-570)作Madhyamakahṛdayakārikā(MHK)のmadhyamakaについて,注釈Tarkajvālā(TJ)が派生説明を与えていることは,Eckel (2008, 65), 斎藤明(2000; 2012)を通じてよく知られている.残念ながら,TJのサンスクリット原典は発見されておらず,チベット語訳を通じた派生説明は,非サンスクリット的であり,正確な理解は困難を極める.しかしながら,その派生説明を,パーニニ文法学体系に位置付け検討するならば,合理的に解釈可能である.TJの派生は,パーニニ文法学の視点から以下のように説明できる.</p><p> (1) madhyaは,実名詞madhya(「中」)にtaddhita接辞aが導入された語形であり(A 4.3.9),「〈中〉に位置し,適切と評価されるX」を意味する.例madhyaṃ kāṣṭham(「程よい薪」「長すぎず短すぎない薪」).</p><p> (2) madhyamaは上記madhyaに意味ゼロ(svārthika)のtaddhita接辞maが導入された語形である(A 4.3.8).上記のXを意味する.Xを「〈中なるもの〉」と呼ぶことにしよう(一般中性・単数形madhyamam).</p><p> (3) upapada複合語</p><p> madhyamakaは,madhyama(「中なるもの」)と/k/音で始まる,説示・宣布行為を表示する動詞語根(kath, kṝt等)にkṛt接辞Ḍa(〈行為主体〉表示)が導入された語形(kṛdanta)kaから構成されたupapada複合語である.適用規則は,A 3.2.101 anyeṣv api dṛśyateである.派生形madhyamakaは,非名称語と名称語の両様に解釈可能である.「〈中なるもの〉を説示・宣布するX」,「『〈中なるもの〉を説示・宣布するもの』という名称を有するX」を意味する.Xはśāstra(論書・学説体系)である.</p><p> (4) 名称形成taddhita接辞ka</p><p> madhyamakaは,madhyamaに名称形成のためのtaddhita接辞kaが導入された語形である.適用規則はgaṇasūtra to A 5.4.3 saṃjñāyāmである.この場合語基のmadhyamaは語形を表示する.名称madhyamakaはsiddhānta(定説)を指示する.śāstraとsiddhāntaはA 5.2.36のtaddhita接辞itaCで関係する.madhyamakaśāstraが論ずる主題の決定(śāstritārthaniścaya)がmadhyamakaと呼ばれるsiddhāntaである.</p><p> MHKにおいてmadhyamakaśāstraがSāṃkhya,Vaiśeṣika,Vedāntaなどの他のśāstraと対照をなしている点を看過してはならない.〈中なるもの〉を論ずる学が真の「仏教学」であるとの主張を窺うことができよう.</p>

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