長野県,上高地谷における斜面-谷底の土砂供給と地震との関係
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- 島津 弘
- 立正大
書誌事項
- タイトル別名
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- Relationships between debris supply from slopes to the valley floor and earthquakes in the Kamikochi Valley, Nagano, Japan
説明
<p>1.はじめに 2020年4月22日,上高地周辺で群発地震が本格的に始まった.これ以降群発地震によってさまざまな場所で落石が発生した.群発地震が続く中,6月14日に大雨が発生し,各所で崩壊,土石流が発生した.群発地震は静穏化したものの,2021年9月にふたたび活発化した.2022年4月27日には再開した群発地震後初めて大雨が発生し,県道沿いの斜面で崩壊が発生し,観光客などが上高地谷に閉じ込められた.群発地震はたびたび発生してきたが,1998年8月7日に始まった群発地震でも各所で落石が発生した.8月中~下旬に確認されたあらたな土石流堆積物は,群発地震開始後の初めての大雨イベントである8月12~13日に発生したと考えられている(三島,2002).本発表では上高地谷における地震,特に群発地震と斜面から谷低への土砂供給の関係を整理し,報告する.</p><p>2.2020年の群発地震と大雨イベント 2020年の地震は4月22日以前から発生していたが,22日以降活動が本格化した.23日に最大震度4の地震が発生し,その後,5月13,19,29日に最大震度4の地震が起こった. 6月11~13日にアメダス上高地における合計109mm,14日に117.5mmの大雨があり,林道沿いの複数箇所で土石流が発生したのが確認され,一部が梓川本流まで達した.2020年9月の調査では林道に直接土砂は流れ込んでいないが,土石流が発生した形跡が認められる場所も発見した.また,斜面上にはいくつもの崩壊地が確認された. </p><p>3.1998年の群発地震と大雨イベント 群発地震開始時,上高地で調査を行っていた.1998年8月7日昼過ぎに最初の揺れが来て,その後上高地で体に感じる地震は数分おきに起こった.深夜には山からの落石の音が聞こえ,翌日登山道上を大きな岩塊が塞いでいるのを目撃した.8月12日にはさらに活発化し,最大震度4および5弱の地震が発生した.一方,アメダス上高地では12日に日降水量79mm,13日に77mmの雨を記録した.この日には現地にはいなかったが,8月後半に現地入りした人から,いくつかの谷の出口付近で土石流堆積物が観察されたことの報告を受けた,9月上旬に下宮川谷沖積錐上で新しい土石流堆積物を確認した.8月13日以降,9月10日以前には数回の日降水量40mm程度の降雨があったのみである.以上のことから,群発地震開始あるいは最大震度記録直後の大雨イベントで土石流が発生したと考えられる.</p><p>4.まとめ 1998年,2020年には群発地震と最大震度4の地震の直後の大雨イベントで土石流が発生している.一方で,継続的に調査を行っている1992年以降,小規模の土石流または土砂流以外の斜面から渓流を通った土砂流出はほとんど発生していない.活発な群発地震活動はこの2回に限定されるが,それ以前の土砂流出について,地震との関係を検討する必要があると考える.</p>
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2022a (0), 138-, 2022
公益社団法人 日本地理学会