多摩川水系浅川の硝酸イオン濃度分布に関する研究

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タイトル別名
  • Study on Distribution of Nitrate Ion in the Asakawa River Basin, Tamagawa River System

抄録

<p>Ⅰ はじめに </p><p> 河川水の硝酸イオンは人為的な活動の影響の指標となる。硝酸イオンが河川水に存在する理由には様々な要因があり、硝酸イオン濃度の分布を明らかにし、その理由を考えることは、その流域の特性を把握することに繋がり有益であると言える。多摩川水系浅川では高度経済成長期後の生活排水による水質汚濁が問題視され様々な研究が行われてきた。現在では下水道の整備により生活排水の流入は大幅に減少したが、現在でも河川水中には多くの硝酸イオンが存在し、その原因を解明する必要がある。本研究では浅川流域全域の硝酸イオンの分布状況を明らかにし、その原因を解明することを目的とする。 </p><p>Ⅱ 研究方法  </p><p> 2020年6月~2021年9月にかけて月に1回の頻度で浅川流域内の34地点において河川水のサンプリングを実施し、現地で水温、電気伝導度、水素イオン濃度の計測を行った。サンプリングした河川水のうち、2020年7月、10月、2021年1月、9月のものはShimazu社製のイオンクロマトグラフィーを用いて硝酸イオンの計測を行った。</p><p>Ⅲ 結果と考察 </p><p> 1. 各支流  </p><p> 山田川の下中田橋では全地点の中で最も高い中央値である18.0mg/Lを記録した。この地点のすぐ上流には下水処理場があり、その排水が流入していることが分かっており、これの影響とみられる。しかしながら下水処理場より上流の地点でも比較的高い値を示していることから、他にも原因が存在するとみられ、原因の解明が必要である。山田川流域は非常に人口密度の高い地域のため何らかの人為の影響によるものと思われる。 川口川最下流の川口川橋の硝酸イオン濃度の中央値は、山田川の地点を除くともっと高い11.0mg/Lであった。川口川は支流の中で最も農用地の割合が高い流域であり、農業活動の影響によるものと考えられる。下流で流入する湯殿川の栄橋と大橋では、それぞれ10.8mg/Lと8.8mg/Lと比較的高い中央値を記録した。湯殿川の流域は、流域内の浄化槽整備区域の割合は低いが、浄化槽整備内の建物用地割合が最も高い支流であり、浄化槽排水の流入が高い硝酸イオン濃度の原因とみられる。 </p><p>2. 本流及び南浅川上流域  </p><p> 本流の上流部の中央値は4.7~5.7mg/Lであった。上流部は全域が浄化槽整備区域となっているため、浄化槽排水の影響が考えられる。しかしながら民家の分布しない地域でも5mg/L前後の硝酸イオンがみられていることから、森林生態系の窒素飽和による森林土壌からの流出が考えられえる。南浅川では本流の上流部より高い値を示し、中央値で5.8~7.3mg/Lの値を示した。また、南浅川支流の木下沢では森林中の渓流水にもかかわらず7.2mg/Lの中央値を示した。上流には民家は存在しないため、森林土壌からの流出と考えられ、相当量の窒素が森林中に蓄積されていることが示唆された。 </p><p>Ⅳ おわりに  </p><p> 流域内の硝酸イオンの空間分布には、下水処理場排水、浄化槽排水、農用地、森林生態系の窒素飽和などが影響を与えていることが示唆された。今後はより詳しい要因の解明のため、季節変化等の検討も行う必要がある。</p><p>参考文献</p><p> 小田理人・小寺浩二(2022):多摩川水系浅川の水質に関する水文地理学的研究(4).日本地理学会発表要旨集,2022s(0),56.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390293644690104320
  • DOI
    10.14866/ajg.2022a.0_63
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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