航海日誌の気象データを用いた南シナ海夏季モンスーンオンセットの長期変動

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  • Long-term variability of South China Sea summer monsoon onset using meteorological data in the ship logs

抄録

<p>1. はじめに アジアモンスーン域内に位置する南シナ海では明瞭な季節風が見られる(Ramage 1971)。アジアモンスーンの季節進行に伴い、南シナ海では5月頃に夏季モンスーンが開始し対流圏下層で東風から西風に変わり、雨量が増加する(Lau and Yang 1997)。南シナ海の夏季モンスーン開始時期(オンセット)を明らかにする研究がこれまで数多く行われてきた(Wang et al. 2004)。南シナ海の夏季モンスーンオンセットの時期には十年規模変動が見られ、長期変動への関心が高まっている(Kajikawa and Wang 2012)。一方で、南シナ海は古くからヨーロッパと東アジアを結ぶ航路として知られており、季節風を利用した航海が行われてきた。本研究では南シナ海を航行した船舶の航海日誌の気象データに着目し、1850年からの南シナ海の夏季モンスーンオンセットの長期変動を調べた。 </p><p>2.  データと解析手法  航海日誌の気象データは1850年~2014年のInternational Comprehensive Ocean-Atmosphere Data Set (ICOADS) (Freeman et al. 2017)と独自に入手しデジタル化した1853年~1877年の英米蘭海軍の19隻を用いた。南シナ海の夏季モンスーンオンセットは、北緯8~13度、東経100~123度の海域(図1)を通過した船舶が観測した風向の東西成分の出現率を利用し、5月1日以降で11日移動平均した西風成分の頻度が90%を超えた最初の日と定義した。ただし、1870年代と1940年代は往来船舶数が少ないため、精度が低い。 </p><p>3.  結果 1850年~2014年の南シナ海の夏季モンスーンオンセット日を図2に示す。比較のため、Kubota et al. (2017)で解析した1903年~2013年のフィリピンの夏季モンスーンオンセット日の時系列を重ねた。フィリピンの場合は雨量をもとに定義した。南シナ海とフィリピンの夏季モンスーンはほぼ同じ循環場によって引き起こされ、オンセット時期も近いことが考えられる。いずれも20世紀前半と1990年代は5月に夏季モンスーンが開始している。 19世紀にも5月の開始が見られる。一方で1860年代から1880年代と最近2010年代は6月に開始する年が多く、夏季モンスーンの開始が遅くなっている。1960年代から1990年代は南シナ海のほうがフィリピンより早く開始し、2000年代以降は逆の傾向になっている。フィリピンでは5月にオンセットする年は台風の影響を受けており、今後オンセットの変動要因についても調べる予定である。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390293644690126720
  • DOI
    10.14866/ajg.2022a.0_106
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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