デジタルクリエイティブクラスが高松市に移住するプロセスと定着要因の分析

DOI
  • 山本 太基
    香川大・協力研究員/株式会社瀬戸内海放送

書誌事項

タイトル別名
  • Analysis of Processes and Factors for Digital Creative Class to Migrate to and Settle in Takamatsu City

抄録

<p>1.はじめに </p><p> クリエイティビティは新しい考えや物事をよりよく進める方法を生み出す力で,生産性と生活水準を向上させ,格差を正す可能性を持つ大きな力がある.そして何かを作り上げて報酬を得るクリエイティブクラスという階層は思考の多様さや寛容さで知られる場所に引き寄せられる(フロリダ,2008).</p><p> 2020年以降,コロナ禍の影響を受けテレワークやWeb会議などデジタルツールを用いた新しい働き方や生活様式が急激に浸透した.今後もさらにデジタル社会の発展が予想される中,本研究ではデジタル領域で活躍するクリエイティブクラスをデジタルクリエイティブクラス(以下DCCという)と呼ぶ.研究対象者としてITエンジニアとWebマーケターに焦点をあてて研究を行った.</p><p> 今後さらにデジタル化社会が進展する時代に,DCCの確保は企業および都市において喫緊の課題である.スキルと経験を持つDCCはいずれ起業したり新規事業で活躍したりして,地域活性化に寄与することが考えられるため,香川県高松市という地方都市であればより求められる.そこでコロナ禍の時代を踏まえ,本研究は,第一にU/IターンしようとするDCCを引きつける都市の要因を分析すること,第二にDCCはどのような過程でU/Iターンを意思決定し移住するのかを明らかにすることを目的とし,得られた結果を基にU/Iターン候補者の移住を促進し定着させるプランの提言を行いたい. </p><p></p><p>2.研究方法と結果 </p><p> 全国を居住地とするDCC532名にWebアンケートを実施した.その結果,1)「移住候補先検討時に重要視する項目の因子分析と特定因子を強く持つグループの分析」では5個の因子が導かれ,その内の一つである多様性寛容性では20代後半,二拠点生活などの新しい働き方・生活様式の経験者ならびに仕事の満足者などが高い個人因子得点を持つ傾向にあった.2)「新しい働き方の嗜好性に関するコレスポンデンス分析」では二拠点生活をやってみたいが費用がかかりそうと考えていることが分かった.3)「デジタルに先進的イメージを持つ地方都市の理由に関するテキストマイニング分析」では会社の移転や有名企業のオフィスがあること,新しい働き方・生活方法を採用している話題を間接的にメディアから見聞きしたことのある地方を先進的だと感じる傾向が読み取れた.</p><p> 次に高松市を中心とした香川県にU/IターンしたDCC10名に対し,移住プロセスと移住後に感じる居心地について,半構造インタビューを行った.修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(木下,2008)を用いて整理した結果,移住のきっかけは親の健康悪化や震災などの外的インパクトと,自身の精神的疲労や仕事のひと段落などの内的インパクトが重なるタイミングで発生していることが分かった.移住決心後は,その行動は早い.しかし一定の距離感で干渉されたくないという気質のため,重要と思えない活動に参加させられたり,批判を受けたりすると居心地が悪く感じ,再び離反予備軍となる.一方で都会と自然が両立している環境が心地よく,学び働く機会や情報を欲していることが分かった.尚,仕事においては地域という意味は希薄であり,生活においては効率化,おいしいごはん,運動および海外を好む嗜好性が分かった.</p><p></p><p>3.考察と提言</p><p> 移住定住政策にてアプローチすべきターゲットは,大都市圏で5年以上勤務する20代後半もしくは30代後半の高松出身者で毎日深夜まで勤務しながらも小さな子どもを持つ人,ならびに自身の精神・体調面に不調をきたし,親・配偶者が大変な状況の人である.二拠点生活など新しい生活の経験者も可能性が高い.</p><p> 移住定住促進の短期的施策では,高松と東京の二本社制デジタル会社の設立と支援,才能ある人がさらに学び活躍できる機会の創出,ならびに地域活性プロジェクトを企画し実行できるマネジャーの誘致・育成である.つまり単にDCCが地域に存在しているだけではなく,新しい知識や経験を得られる学習機会や長期的で流動的な労働機会が地域に根付いている産業システムが構築される活動が求められる(Scott,2006).中・長期的施策では外国人・性的マイノリティ・芸術家への支援,DCCが横連携できるたまり場ややりがいのある地域活性プロジェクトの創出,ならびに市内のトラム走行・歩行者天国などといった寛容性を感じさせる都市改革が望まれる.</p><p></p><p>参考文献</p><p>・木下康仁(2020)『定本 M-GTA 実践の理論化をめざす質的研究方法論』医学書院. </p><p>・フロリダ,R.著,井口典夫訳(2008)『クリエイティブ資本論』ダイヤモンド社. </p><p>・Scott, A. J. (2006) Creative cities: Conceptual issues and policy questions. Journal of urban affairs, 28(1), 1-17.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390293644690154752
  • DOI
    10.14866/ajg.2022a.0_88
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ