正倉院「厚朴」の基原植物について

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タイトル別名
  • Original Plant of Shosoin “Koboku”

抄録

<p>正倉院には天平勝寶8 年 (756), 聖武天皇崩御の七七忌に光明皇太后が東大寺の盧舎那仏に献納した聖武天皇の遺愛品とともに60種の薬物が納められている. この薬物は正倉院薬物と呼ばれ, その品目と量は「種々薬帳」に記録されている. これらの薬物は病気の治療に実際に用いることを目的としており, その結果亡失したものもあるが, 「厚朴」 を含む38品目が現存している. 近代の正倉院薬物の学術調査により, このうち 「厚朴」 と 「胡同律」 を除く薬物の基原が明らかになった.</p><p> 正倉院薬物の厚朴 (北84) (以下 「厚朴」 とする) は長さ約35 cm, 厚さ2 10 mm, 幅は4 cm を超える樹皮で, 外面のコルク層はほとんど削られている (Fig. 1). その外観は本草書に記す良品の厚朴に似ている. 献納時の重量は13斤8 両と記されているが, その後, 出庫した記録がなく, 現在も当時の量が保管されている. 「厚朴」 は現代の厚朴, すなわちモクレン科モクレン属の Magnolia officinalis Rehder & Wilson (カラホオ 中国名 厚朴) またはその近縁種の樹皮とは形態学的に明らかに異なっており, 成分的にも現代の厚朴と一致するものがないことが明らかになった. 現在まで, その基原植物は全く分かっていない.</p><p> 唐代の名医別録, 宋代の図経本草には厚朴に複数の流通品があることが記されており, また, 基原植物の記載は複数の植物の形状が混在しているように読み取れる. 「厚朴」 の正倉院献納時の中国においても何種類かの基原植物があったことが推定される. そこで, 著者らは 「厚朴」 の基原植物を明らかにするために, 歴代の本草書の厚朴に関する記載を調査するとともに, 中国で厚朴の原料とされる植物について文献の調査を行った. この結果を基に 「厚朴」 の基原植物として可能性のある植物を絞り, 樹皮の内部形態を 「厚朴」 のそれと比較した結果, 「厚朴」 はクルミ科の Engelhardia roxburghiana Wall. [= E. chrysolepis Hance] (中国名 黄杞) の樹皮と一致したので報告する.</p><p> なお, 本研究は正倉院薬物第二次調査の補遺である.</p>

収録刊行物

  • 植物研究雑誌

    植物研究雑誌 84 (2), 063-076, 2009-04-20

    植物研究雑誌編集委員会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390293810375362304
  • DOI
    10.51033/jjapbot.84_2_10113
  • ISSN
    24366730
    00222062
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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