“補気”の漢方処方「人参養栄湯」による抗うつ様効果とそのメカニズム

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抄録

現在,漢方処方は医療現場で一般的に用いられるようになってきているが,その一方で西洋医学の薬剤と異なり,科学的な作用機序に基づいて「なぜ」「どのような」疾病に用いるかが明確になっていない.また,疾病や症状を漢方理論に基づいて解釈し,処方を選択する場合でも,漢方理論には複数の解釈が存在し,個々の臨床家が自分の信じる解釈に基づいて処方を選んでいる場合が多い.人参養栄湯は漢方理論では“補剤”と称され,主に“気”を補う処方である.精神的・肉体的なエネルギーが低下した状態を改善するとして古くから用いられ,疲労感,食欲不振,盗汗,四肢の冷感,貧血等に応用されている.これらの症状は,西洋医学的には異なったものとして認識されるが,漢方理論においては“気虚”が根本にあり,それが本人の心身の状況に合わせて様々な症状として現れているものと捉える.したがって,“気を補う”漢方処方によって根本原因が解決すると説明するのである.しかしながら,“気虚”の定義にも諸説あり,先行する研究でも“気虚”を“呼気・吸気の不全”と捉えるものや“加齢による生命エネルギーの減衰”と捉えるものなどが混在しており,“補気”のメカニズムについても未だに不明な点が多い.本稿では人参養栄湯の効果の中でも,うつおよび抑うつ症状の改善に着目し,その根幹に中枢のノルアドレナリン(NA)作動性神経の刺激・増強があることを明らかにした研究を紹介する.<br>なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.<br>1) Tsutsumi S. et al., Tradit. Kampo Med., 9, 25–31(2022).<br>2) Kudoh C. et al., Psychogeriatrics, 16, 85–92(2016).

収録刊行物

  • ファルマシア

    ファルマシア 58 (11), 1078-1078, 2022

    公益社団法人 日本薬学会

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