痛み日誌を用いた行動医学的アプローチの併用により歩行獲得に至った圧迫骨折の一例

DOI
  • 平田 智暉
    社会福祉法人十善会 十善会病院 リハビリテーション科
  • 阿比留 顕
    社会福祉法人十善会 十善会病院 リハビリテーション科
  • 植田 浩章
    社会福祉法人十善会 十善会病院 リハビリテーション科
  • 佐々木 遼
    社会福祉法人十善会 十善会病院 リハビリテーション科
  • 清水 章宏
    社会福祉法人十善会 十善会病院 リハビリテーション科
  • 小泉 徹児
    社会福祉法人十善会 十善会病院 リハビリテーション科
  • 杉山 正泰
    社会福祉法人十善会 十善会病院 整形外科

抄録

<p>【はじめに】</p><p>今回,第2 腰椎(L2)圧迫骨折の受傷後,歩行獲得に難渋した症例を担当した.通法の運動療法や物理療法のみでは疼痛の改善が不十分であった本症例の問題点を再検した結果,痛みの感覚的側面だけでなく認知・情動的側面にも問題が生じていた.そこで,痛み日誌を用いた行動医学的アプローチを併用することで,歩行獲得に繋がったため報告する.</p><p>【症例紹介】</p><p>80 歳代女性.BMI:17.3kg/m 2 .ADL 自立,歩行は独歩.介護保険なし.既往歴:骨粗鬆症,左肋骨・肺摘出,慢性疼痛(腹部~腰背部).X-2 ヶ月から徐々に食欲低下や低活動を認め,自宅内での転倒を繰り返していた.X 日,自宅内で転倒受傷,L2 圧迫骨折と診断され,加療目的で入院となった.PT 介入はX +3 日より開始し,コルセットが完成したX+9 日より歩行練習を開始した.</p><p>【初期評価(X +3 日)】</p><p>HDS-R:24 点.安静時痛なし,動作時痛あり:部位;L2 椎体,動作;寝返り~起立時,質;ズキズキ,NRS;8.握力(kg):右11.5/ 左10.0.基本的動作:寝返り~移乗;軽介助.mFIM:56 点.</p><p>【中間評価(X +14 日)】</p><p>歩行練習開始後も疼痛が持続したため,疼痛関連項目の評価を行った.安静時痛なし,動作時痛あり:部位①;L2 椎体,動作;寝返り~起立時,質;ズキズキ,NRS;6,部位②;腰背部~肋骨部,動作;歩行時,質;ジンジン,NRS;6.TSK:48 点.PCS:反芻20 点/ 無力感17 点/ 拡大視11 点.HADS:不安13 点/ 抑うつ6 点.PSEQ:13 点.基本的動作:寝返り~起き上がり;見守り,移乗;軽介助,歩行;平行棒内見守り.mFIM:62 点</p><p>【問題点・目標設定】</p><p>歩行獲得に難渋した要因として,慢性疼痛により生じていた痛みの恐怖―回避思考の影響が示唆され,今回の圧迫骨折を契機にさらに強まったと推察された.そこで,理学療法介入に行動医学的アプローチを取り入れることとし,先立って症例と共に目標を設定した.長期目標(X+6 週)「ひとりで歩ける.休みながら70 段の階段を上がる」,最終目標(X+8 週)「ひとりで自宅で生活する」とした.</p><p>【アプローチ(X +14 日~)】</p><p>運動療法に加えて,目標達成のツールとして痛み日誌を取り入れた.痛み日誌は自記式とし,介入前に「日々の小目標」「痛みの強度」を,終了後には「痛みの強度」「運動内容」「感想」を記入した.日々の小目標は運動量やADL に関する内容とし,必要に応じて難易度の調整を図った.なお,痛み日誌の内容は症例とPT で共有し,フィードバックの中で成功体験の実感を促した.</p><p>【最終評価(X +54 日)】</p><p>安静時痛なし,動作時痛あり:部位;腰背部~肋骨部,動作;歩行時,質;ジンジン,NRS;5.TSK:46 点.PCS:反芻19 点/ 無力感14 点/ 拡大視11 点.HADS:不安9 点/ 抑うつ7 点.PSEQ:41 点.10MWT:8.3 秒.握力(kg):右16.4/ 左13.3.基本的動作:寝返り~移乗;自立,歩行;T 字杖屋外自立,階段昇降;T 字杖を使用し,100 段昇降可能.mFIM:85 点.</p><p>【考察】</p><p>行動医学的アプローチを併用した結果,骨折部の疼痛は消失し,歩行の獲得に至った.既往歴の慢性疼痛に加え,痛みの精神・認知的側面については改善が乏しかったものの,このような結果が得られた理由としては,日々の小目標を達成したことによる自己効力感の向上が強く影響したと推察される.すなわち,疼痛の改善のみに目を向けるのではなく,できるADL の拡大に主眼を置いたことが運動に対する動機づけとなり,その結果として歩行や階段昇降動作の獲得に繋がったと考える.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本報告はヘルシンキ宣言に基づいており,対象者に十分な説明を行い,同意を得た.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390294252780887936
  • DOI
    10.32298/kyushupt.2022.0_110
  • ISSN
    24343889
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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