カーボン製短下肢装具が立脚初期の足関節制動力に及ぼす影響 ~プラスチック製短下肢装具との比較を通して~

  • 金古 翔太
    医療法人福岡桜十字 福岡桜十字福岡病院 リハビリテーション部
  • 川崎 恭太郎
    医療法人福岡桜十字 福岡桜十字福岡病院 リハビリテーション部
  • 久保田 勝徳
    医療法人福岡桜十字 福岡桜十字福岡病院 リハビリテーション部 桜十字先端リハビリテーションセンター 研究員
  • 玉利 誠
    桜十字先端リハビリテーションセンター 研究員 令和健康科学大学 リハビリテーション学部 理学療法学科

Description

<p>【はじめに】</p><p>脳卒中ガイドライン2021 では,内反尖足を有する脳卒中片麻痺患者に対して歩行機能の改善を目的に短下肢装具(以下,AFO)を使用することが推奨されている.一般的に,臨床現場ではプラスチック製AFO(以下,PAFO)が頻用されているが,足関節の内反尖足が強い患者の場合,立脚初期における足関節の底屈運動を制動できないため,PAFO ではなく底屈運動を制限する金属支柱付AFO が処方される傾向にある.しかしながら,金属支柱付AFO は重量が重く,外観を損ねるといったデメリットもあるため,近年ではPAFO よりも軽量かつ耐久性に優れ,立脚後期の自然なプッシュオフ動作を再現できるカーボン製AFO(以下,CFAFO)が開発されているが,立脚初期におけるCFAFO の制動効果については明らかにされていない.そこで今回,健常成人を対象にPAFO とCFAFO 装着時の筋活動を計測し,立脚初期における制動力を比較検討した.</p><p>【方法】</p><p>対象は,歩行に影響する整形外科疾患がない健常成人23 名(年齢:26.1± 3.0 歳,身長:170.0 ± 3.6cm,体重:64.2 ± 6.8kg,足長:26.5 ± 0.6cm)とした.対象の左側下肢にPAFO とCFAFO(ウォークオントリマブル.オットーボック社製)を装着した2 条件において,加速期と減速期の各2m を除いた10m の快適速度歩行を実施し,Gait Judge System(パシフィックサプライ社製)を用いて歩行時の前脛骨筋の筋活動を計測した.なお,各計測の間は十分な休憩を設けた.計測後,定常化した連続5歩行周期のデータを1歩行周期ずつ100% に正規化し,立脚初期(0%)から加重応答期(13%)における前脛骨筋の積分値を算出した.統計学解析にはEZR(Easy R)for macOS を使用し,正規性の有無を確認後,Wilcoxon の符号順位検定を用いて2 条件の積分値を比較した.なお,有意水準は5%とした.</p><p>【結果】</p><p>装具を装着した左前脛骨筋の積分値は,PAFO:657.2±875.2μV,CFAFO:502.1 ± 412.2 μV で,CFAFO 条件において有意に低値を示した(p <0.05).また,対側の右前脛骨筋は,PAFO:1124.8 ±1343.6 μV,CFAFO:1010.7 ± 1235.7 μV であり,2 条件間で有意差は認められなかった.</p><p>【考察】</p><p>本研究の結果,立脚初期における前脛骨筋の筋活動はCFAFO 装着時に有意に低値を示した.大畑らは,足関節の制動力が強い装具装着時には立脚初期の前脛骨筋の筋活動が低下することを報告していることから,CFAFO はPAFO よりも足関節の制動力が強い可能性が示唆される.また,CFAFO は金属支柱付AFO よりも軽量で外観も良いことから,麻痺側下肢の異常筋緊張や内反尖足によりPAFO が適応外となった症例に効果的である可能性が考えられる.しかしその一方で,足関節の制動力が強すぎる装具は立脚初期の膝折れや反張膝といった異常運動の原因となる可能性も示唆されていることから,実際には足関節の筋緊張のみならず,その他の身体機能も考慮して装具を選定する必要があると思われる.最後に,本研究は健常成人を対象とした比較検討であることから,今後は脳卒中片麻痺患者の歩行に及ぼす影響についてより詳細に検討を進めることにより,PAFO やCFAFO,金属支柱付AFO などを選定する際の一助となる知見が得られるものと考える.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は,当院の倫理委員会に承認(2020042701)を受け実施した.</p>

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