視覚遅延フィードバックが脳卒中患者の座位バランス制御に与える影響 ―250msec と500msec による効果検証―
抄録
<p>【はじめに,目的】</p><p>脳卒中患者の座位バランスの改善は日常生活動作能力を拡大する上で重要とされている.座位バランスの改善を目的とした従来の介入方法には,前方リーチや側方リーチといった動的座位練習が有用であるとされているが,近年では視覚遅延フィードバックを活用した介入方法も有用であることが明らかにされつつある.澤らは脳卒中患者に500msec 遅延フィードバック条件での座位練習を実施したところ,麻痺側への最大重心移動距離の改善に有用であったと報告している.一方,健常者においては250msec 遅延フィードバック条件が最大重心移動距離の改善に有用であったと報告されおり,健常者と脳卒中患者では効果が期待される遅延時間が異なることが予測されるが,遅延条件の違いが及ぼす効果について検討された報告はない.本研究では脳卒中患者における遅延条件を250msec と500msec に設定し,その介入効果を検証することを目的とした.</p><p>【方法】</p><p>対象は2019 年4 月~2020 年3 月までの期間で,当院回復期リハビリテーション病棟に入院中の初発脳卒中患者のうち,座位保持が監視又は自立しており,本研究に同意が得られた14 例(年齢68.8 ± 13.5,左片麻痺8 例,右片麻痺6 例)とした.対象は250msec 群(n=7) と500msec 群(n=7) の2 群とし,被験者盲検化によるランダム化臨床試験にて実施した.調査項目として,年齢,性別,Brunnstrom Recovery Stage,Trunk Control Test を調査した.介入は,CoP をモニター上に対象者の動きにあわせ投影し,麻痺側方向への最大側方移動トレーニングを通常の理学療法に加えて1 日50 回10 日間実施した.介入期間は250msec 群で0msec(遅延なし)介入5 日間→250msec 介入5 日間,500msec 群で0msec(遅延なし)介入5 日間→500msec 介入5 日間とした.計測は,SR ソフトビジョン(住友理工株式会社製,SVZB4525L)を用い,評価は麻痺側方向への最大重心移動後,30 秒間座位保持が可能であった重心位置より算出したCoP 移動距離を採用した.また,介入前・介入5 日後・介入10 日後に実施し,各期のCoP 移動距離の差分を算出した.統計学的解析は,各調査項目,250msec 群と500msec 群の介入5 日後と介入10 日後の2 群間比較としてMann-Whitney のU 検定を実施し,有意水準は5% とした.</p><p>【結果】</p><p>2 群比較の結果,各調査項目で有意な差は認めなかった.介入5 日後( 遅延なし介入) のCoP 移動距離の平均値は250msec 群で18.48mm,500msec 群で10.46mm であり,有意な差を認めなかった(p=0.14).介入10日後(遅延あり介入)のCoP移動距離の平均値は250msec群で-5.00mm,500msec 群で9.61mm であり,有意な差を認めた(p <0.05).</p><p>【考察】</p><p>今回、遅延条件を250msec と500msec で比較して検証した結果,脳卒中患者においては500msec 条件下の視覚遅延フィードバックを活用した動的座位練習が座位バランス向上に寄与する可能性が示唆された.これは,座位側方移動時の遅延フィードバックを500msec で行うことで視覚運動感覚に負荷を加え,内部モデルを更新させることが可能となったため,麻痺側への重心移動距離の拡大に繋がったと考える.</p><p>【結論】</p><p>脳卒中患者に対する視覚遅延フィードバックを活用した動的座位練習は250msec 遅延条件よりも500msec 遅延条件が座位バランス向上に寄与する可能性が示唆された.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究には,当院の倫理審査委員会にて承認(2019090904)を受け実施した.</p>
収録刊行物
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- 九州理学療法士学術大会誌
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九州理学療法士学術大会誌 2022 (0), 67-67, 2022
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390294252780969600
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- ISSN
- 24343889
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可