鏡視下肩関節授動術後の自動挙上可動域獲得に難渋した一例 ~超音波を併用した運動療法は有効だったのか~
説明
<p>【目的】</p><p>鏡視下肩関節授動術後、肩周囲筋群の同時収縮が原因で他動可動域と自動可動域にlagが生じ、自動挙上可動域の改善に難渋した症例を経験した。本症例は、術後4 週間より深達性温熱作用目的に超音波治療を導入し、顕著な自動挙上可動域改善が認められたので報告する。</p><p>【症例紹介】</p><p>50 代女性。身長152.5cm。中学校教諭。現病歴は某日より誘因なく肩の挙がり辛さを自覚し近医受診。両肩関節拘縮との診断あり。保存的加療するも次第に右肩痛が悪化。黒板への板書が不能となり就業困難となったため早期復職目的で右肩鏡視下肩関節授動術施行。demand は黒板の板書が出来るようになりたい。</p><p>【術前評価】</p><p>疼痛(NRS): 安静時2/10、動作時6/10、夜間時6/10。ROM: 挙上60° /80°、外旋20°/10°、結帯S/L5。MMT:SSP4/4、ISP3/3、SSC4/4。JOA score: 合計48/100 点。SSD: 左右差なし、肩甲骨挙上位。MRI: 腱板断裂(-)、脂肪変性(-)。</p><p>【授動術後EUA( 右肩)】</p><p>挙上170°、伸展75°、外転170°、内転45°、外旋90°</p><p>【臨床経過】</p><p>術翌日より手指自動運動、肘の自動介助運動、全方向他動・介助自動・自動ROM 訓練、等張性輪ゴム訓練、肩甲骨モビライゼーション、肩甲骨自動運動開始。術後7 日まで腕神経叢持続ブロック継続し、リハビリ前にボーラス投与。術後16 日、自宅退院。以後週2~3 回通院リハビリ継続。術後4 週目より超音波治療開始(1MHz、DUTY100%、1.2W/cm 2 、腋窩部に5 分間)。術後2 か月の診察で可動域に自信を持ち次第外来リハビリ終了許可あり。術後3 か月でリハビリ終了。</p><p>【術後評価(PO3M)】</p><p>疼痛(NRS): 安静時0/10、動作時0/10、夜間時0/10。ROM: 挙上160° /140°、外旋60°/35°、結帯Th11/Th10。MMT:SSP5/5、ISP5/5、SSC5/5。JOA score 合計95/100 点。</p><p>【考察】</p><p>本症例は強い術後疼痛により翌日の積極的な介入は困難であったが、術後1 週で他動可動域は背臥位で屈曲145°、外旋50°まで獲得できた。本症例の術後1週の他動可動域は比較的良好であると予測されたが、挙上時にシュラッグ動作を認め、自動挙上は術後2 週~4週にかけて115°程度であった。術後疼痛消失後には腱板筋力に問題は生じなかった。福島らは「過剰な同時収縮は運動性の低下や過度なエネルギー効率の悪化につながる」と述べている。そのため、術前の不動による筋収縮主動作筋と拮抗筋の過度な同時収縮、さらに拮抗筋の弛緩不良が原因と考えられる自動可動域の停滞が今回の問題となった。この点の改善を期待し、筋緊張の抑制目的に術後4週から超音波温熱治療を施行。照射部位は烏口腕筋や大円筋、上腕三頭筋長頭、広背筋部が集約する腋窩部に行った。超音波の温熱作用は深部の循環改善に加え、γ運動ニューロンの発火率が減少し、α運動ニューロンの興奮作用が抑えられる。その結果、肩関節挙上時の腋窩周囲筋の筋緊張抑制につながると考えた。加えて、超音波治療直後の組織温度が高い間にIb 抑制を利用したストレッチも実施した。超音波治療を開始後2 週間で肩関節自動挙上が125°から150°まで向上し、同時収縮の減少やシュラッグ動作の改善につながった。</p><p>その他にもホームエクササイズとして肩関節・肩甲帯・体幹の積極的な自主訓練の継続をしていただいた。一般的な黒板板書には身長を考慮し概ね高所で135°程度の角度が必要と思われたが、十分な可動域を獲得することができ、今回のdemand を達成できた。</p><p>【結論】</p><p>筋の伸張性低下による肩関節自動挙上不良に対して、腋窩部での超音波温熱治療の有効性が見られた一例であった。</p><p>【倫理的配慮、説明と同意】</p><p>ヘルシンキ宣言に基づき対象者に本発表の趣旨を口頭で説明し同意を得た。開示すべき利益相反なし。</p>
収録刊行物
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- 九州理学療法士学術大会誌
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九州理学療法士学術大会誌 2022 (0), 58-58, 2022
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390294252780980864
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- ISSN
- 24343889
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可