自然災害時の避難所に必要な薬剤を処方しドローンで供給する際に生じる諸課題

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抄録

<p>【目的】大分県は自然災害が多く、避難所における住民への医療の提供が課題である。特に高齢化の進む過疎地域では様々な慢性疾患を有する住民の避難が予測されるが、被災地が孤立すると医療チームの訪問や薬剤供給が遮断され、住民に適切な医療を提供できなくなる。医療アクセスを改善する手段として、大分県で試行されてきた僻地への遠隔診療やドローンでの薬剤輸送がある。我々は医療や物流の脆弱性から僻地と避難所の類似点に着目し、僻地医療での遠隔診療・薬剤輸送を災害時に応用することで自然災害時の避難所でも必要な薬剤を処方しドローンで供給することを目指して、想定される課題の抽出を目的とした。【方法】天ヶ瀬温泉街避難訓練での住民からの聞き取り、過去の実証事業に携わった医師・企業からの聞き取りを行なった。【結果・考察】訓練に参加した住民から、病歴や内服薬について災害時に明確に説明できないだろうとの声が多かった。また、被災という特殊な状況での不眠や不安、避難所の住環境による体調不良への懸念が聞かれた。遠隔診療に関わった医師からは、身体診察等ができず新規の体調不良への対処が難しいとの意見があった。また、臨時の医師が対応する場合やカルテを参照できない状況では、患者背景や詳細な病歴の把握が困難との声もあった。ドローン事業に携わった企業から、ドローンの飛行には法に則った安全な経路と自治体や地権者からの許可が必要で、運用まで時間がかかると指摘された。また、飛行条件として安定した無線通信も挙げられた。これらの課題は、薬剤の処方と供給とに大別される。遠隔診療は処方の必要性を判断する手段となり得るが、災害時は問診のみでの詳細な病歴や服薬状況の確認に限界がある。医療者が患者情報を共有するため、カルテのクラウド化も含めた遠隔診療システムが望まれる。避難所までのドローンの経路を発災後に確保することは現実的でなく、飛行経路は平時から設定する必要がある。技術的な限界として、災害による通信の不安定化が考慮される。今後はこれらの課題を踏まえ、自然災害時の避難所で必要な薬剤の処方とドローンでの供給を目指した実証的研究を行う。【結論】自然災害時の避難所に必要な薬剤を処方しドローンで供給する際に生じる課題として、処方では遠隔診療システムも含む患者情報管理システムの不備が、供給ではドローンの法的規制および技術的制約が抽出された。</p>

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