日本の株式市場における 投資家の株価予測形成メカニズムの実証分析

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  • Empirical analysis for mechanism of investors' expectation for price formation on Japanese stock market

抄録

<p>ファンダメンタルズを反映しない株価の乱高下は、株式市場のみならず、企業の経済活動や金融機関行動にまで大きな影響を与える。金融政策当局がそのような金融市場の不安定性の原因を解明し、市場整備を行うことは非常に重要である。90年代以降、金融市場の自由化に伴い投資家の期待が金融資産価格に反映されるようになったことを考えると、価格の乱高下の原因を解明する鍵は投資家の期待形成メカニズムを理解することにあるはずである。本研究ではQUICKによる投資家への株価予測月次調査の個票データを利用し、日本の株式市場における投資家の期待形成メカニズムをエージェントベース理論をもとに明らかにする。市場構造分析の経済理論として注目を集めるエージェントベース理論モデルでは株価が大きく変動する理由として、投資家の予測がいくつもの投資戦略を組み合わせる形で形成され、投資家がその組み合わせの比重を時間を通じて調整していることに注目する。標準的なモデル(例えばBrock and Hommes(1998))によると、投資家はテクニカル戦略(T戦略)とファンダメンタル戦略(F戦略)を組み合わせて期待を形成する。ここで、T戦略とは過去の価格情報をもとに期待を形成する戦略であり、F戦略とは、企業の純利益や配当金などの代理変数で測られる企業の根源的価値の周りを株価は推移すると予測する戦略である。両戦略の組み合わせの比重は時間を通じて変化し、予測が主に過去の価格のトレンドに沿って形成する時期と、F戦略に大きく依存する時期があるとする。期待が主に価格のトレンドに沿って形成される場合は、株価は短期的にはバブルなどに見られる不安定な動きをし、F戦略に大きく影響を受ける場合は、株価は安定的に推移する。多くのエージェントベース理論モデルでは、この「戦略の切替え」が市場不安定の主たる要因と考える。本研究では、この戦略の切替えが実証的に見て市場の不安定性を引き起こした要因であるか否かを、日本の株式市場に関して検証する。先行研究では、いくつかの室内実験や為替市場でこの「戦略の切替え」について実証がなされているが、特に日本の株式市場に関しての実証研究は未だ見られないことを考えると、本研究の学術的貢献は大きい。具体的に本研究では、Pfajfar and Santoro (2010)に倣って毎期ごとに予測値による並び替えを行い、予測値の統計百分位数ごとの「戦略の切替え」を分析する。先行研究では予測の平均値の決定要因を分析したものが殆どである。しかし予測値の分布は非対称であるかもしれないし、分布は時間に応じて変わるかもしれず、予測の平均値のみを扱う研究では平均値より離れて予測する投資家の期待形成プロセスを無視してしまうことになる。本研究では予測値を毎期、百分位数に分け、百分位数ごとの期待形成プロセスを研究する。この分析から楽観的・悲観的双方の予想プロセスが明らかになる。すなわち、バブル期には過去の価格トレンドに沿って予測する楽観派が増え、暴落期にはトレンドに沿って予想をする悲観派が増え暴落を助長する、というような市場不安定化メカニズムを解明できる。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390294740098264832
  • DOI
    10.11517/jsaisigtwo.2011.fin-006_12
  • ISSN
    24365556
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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