分子性電荷移動塩の超伝導ギャップの構造と対称性の熱力学的解析

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タイトル別名
  • Thermodynamic Analyses of Superconducting Gap Structures and Pairing Symmetries of Molecular Charge-Transfer Salts

抄録

<p>分子性電荷移動塩は有機分子上の電子間に働く電子相関を軸に,分子の構造的および量子力学的な自由度が絡み合って多様な電子物性を示す物質群である.分子の特徴的な形状は様々な積層形態を生み,電子構造や次元性等に影響を与える.多様な次元性やバンド状態の中で,強い相関をもつ電子のスピン・電荷の自由度が反強磁性や電荷秩序,超伝導などの量子物性を発現させる.分子設計やカウンター分子との組み合わせ,圧力など外的環境の変化によって物理パラメータを構造面から精密に制御し,これらの量子物性を系統的に理解していくことができるのが分子性電荷移動塩の面白さである.</p><p>電子状態は分子配列によって類型化されており,有機分子が二量化した構造とそうでない構造に大別される.分子が二量体(ダイマー)として1価の状態となる場合,それを結晶格子の構造ユニット(サイト)と考えることができ,バンドは実効的に半充填となる.オンサイトクーロン斥力Uが重要となる強い相関をもつ電子系であるためダイマー・モット系と呼ばれており,基底状態はモット反強磁性絶縁体となる.κ・λ・β ′型塩などがダイマー・モット系として分類され,金属・絶縁体転移を有する電子相図が提案されている.一方,θやβ ′′型は二量化がない非ダイマー系として知られ,Uよりサイト間クーロン斥力Vが実効的になって電荷秩序絶縁相が現れる.どの塩でも超伝導相は電子相図上で絶縁相に隣接して現れるため,その絶縁相の起源となるスピン・電荷の揺らぎが電子対形成を担う非従来型超伝導であると期待される.</p><p>超伝導の起源を議論するには,超伝導ギャップ構造を正確に知る必要がある.熱測定はエントロピーを通してミクロな秩序化度を定量できる手法であり,高い分解能をもって低エネルギーの集団励起を検出することが可能である.磁場方向を結晶軸に対して連続的に変えて励起構造を計測する角度分解熱容量測定では,電子基底状態に対してより多角的な情報を与え,例えばFermi面周辺の超伝導準粒子励起の外場依存性を議論することで詳細な超伝導ギャップの対称性を明らかにできる.</p><p>ダイマー・モット系では全ての塩で超伝導ギャップに線状のノードがある場合に特徴的な熱容量の温度・磁場依存性が実験で観測された.しかし,詳細な対称性を調べると超伝導相の中でも位相が異なる2つの対称性が競合していることがわかった.最新の理論研究と対比することで分子の二量化度やダイマーの格子形状が2つの対称性を競合させていることが明らかとなり,同じく反強磁性スピン揺らぎに起因する超伝導である銅酸化物高温超伝導体とは異なることがわかった.一方,非ダイマー系では同様の測定からVを引力起源とした電荷揺らぎによるフルギャップ超伝導である可能性が示唆された.</p><p>同じ有機分子でも分子の自由度によって起源・性質が変わっていく点は分子物質ならではの多様性といえる.格子形状や低次元性は特異な超伝導を引き起こす舞台ともなり,分子性超伝導体の研究は非従来型超伝導の理解に重要である.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 78 (2), 79-84, 2023-02-05

    一般社団法人 日本物理学会

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390295027678922880
  • DOI
    10.11316/butsuri.78.2_79
  • ISSN
    24238872
    00290181
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • KAKEN
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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