ギグワーカーの安全衛生に関する 法的保護のあり方について

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書誌事項

タイトル別名
  • State of legal protection for gig worker health and safety:
  • Status in Japan and prospects
  • —日本の状況と展望—

抄録

日本の労働関係法は、一般的にソフト・ローであり、ギグワークに関する法制度も不十分/もどかしいが、独自の趣旨を持つ様々な法律が課題を包囲し、社会学的な力学(就労者や消費者の事業者への信頼等)と共に事業者の行動を監視している。ルールの形成過程で経営者との合意を重視する理由の1つは、ルールの策定後、経営者にそのルールを確実に履行させることにある。多面性と柔軟性の面では、国際的に一定の参照価値を持つようにも思われる。  日本の主要な個別的労働保護法(労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法、労災補償保険法)の適用範囲(scope)は、ギグワークを適切にカバーできていない。柔軟な解釈にも限界がある。集団的な労使関係法(労働組合法)なら、適用範囲に入る可能性がある。適用されれば、使用者への団体交渉の強制により、安全衛生について協議できる。労働安全衛生法には、一部にリスク創出者管理責任負担原則を反映した規定があるし、司法の解釈と法改正により、徐々に適用範囲が拡大されているが、全てのギグワークのカバーは難しい。内職者(家内制手工業者)用の家内労働法は、仕事の委託者と受託者(内職者)の双方に種々の安全衛生措置を課している。適用業務が限られているが、制定の背景(雇用者としての責任逃れの防止等)の共通性からも、改正すれば適応する可能性がある。民事上の安全配慮義務は、かなりの程度、リスク創出者管理責任負担原則を具体化しており、ギグワークへの適用可能性が最も高い。しかし、プラットフォーマーとギグワーカーの間に、勤務条件の設定や支配管理可能性、事実上の指揮命令関係など、労災(損害)の発生を予見でき、管理できる関係がなければならない。経済法では、中小企業等協同組合法が、個人事業主の連帯と取引先との交渉の法的根拠を提供しているが、殆ど活用されていない。  このように、直接的な規制は乏しいが、重大な脱法的問題が生じれば、裁判所が、関係法令の趣旨を汲み、安全配慮義務などの柔軟な解釈によって、救済を図り、その後、立法に結びつくだろう。今後の立法で、プラットフォーマーらに課すべき基本的な措置は、リスク調査と調査結果のギグワーカーらへの提供、集団的交渉への誠実な対応、国が行うべき措置は、ギグワークに伴う一般的なリスクと良好な対応策の調査と情報提供等となるだろう。中小企業等協同組合法で保護された協同組合が、メンバーの面接等を担当する産業医を選任し、その産業医が必要と認める場合、委託者らに対して、当該就労者の就労条件の改善のための働きかけを図るようなスキームも求められる。なお、産業衛生学等から、ギグワークに伴うリスクが指摘されているので、今後の立法はもとより、安全配慮義務の解釈、プラットフォーマーとギグワーカーらの義務的交渉等での活用が望まれる。

収録刊行物

  • 産業保健法学会誌

    産業保健法学会誌 1 (2), 43-67, 2022-12-26

    一般社団法人 日本産業保健法学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390295193436192896
  • DOI
    10.57523/jaohl.1.2_43
  • ISSN
    27582574
    27582566
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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