アート・文化的な視点と実践からメンタルヘルスを問い直す

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書誌事項

タイトル別名
  • Rethinking Mental Health from Artistic and Cultural Perspectives and Practices
  • Through the Case of Mindscapes
  • マインドスケープスの事例を通じて

抄録

NPO法人インビジブルは、目に見える具体的なことのみならず、社会の中に潜むまだ見えぬ価値を、アートを触媒にして可視化させることを目指している法人である。アートは特別なものではなく、誰しもがアートに関する視点や才覚を有している。「日常にこそアートがある」と認識することが大事である。そして「アートを触媒に物事を計画する姿勢」によって既成概念を壊しながらプロジェクトを作り上げていくことが重要であり、そもそも我々は分かり合うことができないからこそ分かり合おうとするのだから「違いや個性の尊重とコミュニティ・エンゲージメント」が活動において大切な点になる。  この非営利法人の事業は、ラボ事業、中間支援事業、及びその他関連事業の3つから成り立っている。ラボ事業は都市や地域の潜在的な課題を発見し、その課題に対する適切な事業を展開していく投資事業に類する事業である。中間支援事業はプロジェクトの解決を目指す企画提案及びその実装の実践・評価をする事業であり、現時点のマインドスケープス東京も中間支援事業である。その他関連事業はラボ事業及び中間支援事業に関連する他の事業である。これら3つの事業をインビジブルは日本全国で展開してきた。ラボ事業の例としては福島県富岡町において展開されている各界のプロフェッショナルが学校の教室を仕事場としながら子供たちと学校生活を共にする「PinSプロジェクト」が挙げられる。中間事業としては六本木ヒルズ及び森美術館開業15周年の際のアートを介して人々と交流するプロジェクトである「つむぐプロジェクト」が挙げられる。いずれも人と人とをどのようにしてつなげるのかという際にアートが重要な役割を果たしている。  マインドスケープス東京は多くの人々の共通課題であるメンタルヘルスに取り組むプロジェクトであり、イギリスの財団ウェルカム・トラストとNPO法人インビジブルの事業体で進めているプロジェクトである。「世界では4人に1人が精神的な問題を経験している」というこの時代においてメンタルヘルスは多くの人々の共通課題である。この共通課題にチャレンジするプロジェクトである。メンタルヘルスというと医療専門家の領域であると考えられることが多い。しかし、「科学だけ」でこの共通課題は解決できない。「アーティスト、作家、キュレーター、デザイナー、映画制作者など」の様々な領域の専門家が互いに学び合って協力することが必要である。そのため、マインドスケープス東京では多様なバックグラウンドを有する人々が参画している。  そもそもメンタルヘルスという言葉自体から問い直す必要がある。「メンタルヘルス」という言葉に触れた際、触れた人々のバックグラウンドにより捉え方が異なる場合があるからである。そのため、「メンタルヘルス」とは何か?をゼロベースで問い直す必要がある。また、参加者それぞれは当然、他の参加者とは異なる体験・経験をしてきている。その異なる体験・経験を基に「メンタルヘルス」を問い直すことが重要である。その上で、プロジェクトに参加する人々を一つのコミュニティと考えて活動していくことが大切である。人と人との間の信頼関係の醸成なしに互いに素直に話し合うことは難しいだろう。  マインドスケープス東京には「コンビーニング」と「UI都市調査プロジェクト」の2本の柱がある。「コンビーニング」はアート/文化の視点から対話を大切にする場、つまり、対話集会である。さまざまなバックグラウンドを有する参加者が複数回の対話集会によりメンタルヘルスとは何なのかについて問い直す取り組みである。参加者は医療の専門家ではないとしても精神衛生上の問題に直面している人々である。だからこそ対話により「素人だからこそできること」に着目している。  「UI都市調査プロジェクト」はリード調査員(アーティスト)とユース調査員(高校生)がチームを作り、チームにおいてテーマからメンタルヘルスまで探究調査をする活動を経て、そこで得られたアイデアを形にする。その形になったものが作品であり、また次にメンタルヘルスについて考えてもらえるツールともなる。現在、『究極の「寝床」をつくる』、『“こころを扱う場”を求めて』、『「フツウ」ってなに?』等の調査テーマが進行している。  そして、メンタルヘルスを問い直すためのキーワードには、日本の「高文脈文化」、「日本語としての言葉の由来+解釈」、「恥の文化」、「既成概念を壊す 学び合い/学び直し」、そして「雑感」がある。特にコンビーニング等の対話集会ではついつい結論を出そうとする意識が働きがちである。しかし、例えば「メンタルヘルス」という言葉は人によってとらえ方が異なり得る言葉であり、自らの解釈を他人に押し付けるようなことはあってはならない。そのため、参加者が考えたこと・感じたことを結論としてではなく思ったこととして他者に伝え、共有することが重要である。この場合に「雑感」により他者に伝えることが実は非常に効果的であることがこれまでの取り組みにより明らかになった。ワークショップ後に何か1つの考えをまとめとして提示するのではなく、参加者各人の言葉や想いを受け止める行為自体を大切にしなければならない。

収録刊行物

  • 場の科学

    場の科学 2 (3), 4-62, 2023-01-31

    協創&競争サステナビリティ学会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390295336745911424
  • DOI
    10.50991/jasccorg.2.3_4
  • ISSN
    24343766
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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