トラウマにより生きにくさを抱えた患者に対する精神科看護師の看護支援の現状と課題

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抄録

<p>(緒言)</p><p> 心的外傷(以下 トラウマ)は,生命に危険を伴うか,またはそれに匹敵する強い恐怖もたらす体験がある程度の時間を経て精神障害の原因となる心の傷である.精神科の医療現場おいて,トラウマ体験により苦悩する人と出会ってもそれに気づかないか,大きな問題として捉えられない現状がある.そこには,看護師が支援において何らかの困難さを感じている可能性がある.本研究の目的は,トラウマにより生きにくさを抱えている患者を支援する精神科看護師の体験に着目し,その感情や思考,支援の姿勢,それらに影響している要因を明らかにして,教育ニーズや課題を明確化することである.</p><p>(研究方法)</p><p>研究対象者:精神科病棟に勤務する看護師</p><p>調査方法:半構成インタビューによる質的研究方法.インタビューは一人につき1回40~80分行った.インタビューでは,トラウマにより生きにくさを抱えている患者との関わりについて,印象に残っている場面を取り上げ,感情や思考,行動を中心に語ってもらった.</p><p>分析方法:患者との関わりで生じた感情や思考,行動についての語りを質的に分析しカテゴリー化した.</p><p>(結果)</p><p> 対象者は,精神科病棟に勤務する看護師8名であった.看護師は【患者支援の困難感】や患者の【トラウマに触れることへの戸惑い】を抱きながらも,【現在の問題に着目する】という支援をしていた.看護師の感情や思考,支援の姿勢に影響していた要因は【患者要因】【看護師要因】【状況要因】に分けられた.それぞれのなかで,患者の演技的で他罰的な傾向,看護師自身の消極性や自信のなさ,無力感,トラウマを意識した看護経験の乏しさ,限られた入院期間,主治医の方針や臨床でのトラウマに対する認識の希薄さなどは,支援への阻害要因となっていた.これらの影響が強い場合は,看護師には【トラウマの問題を回避する】【淡々と対応する】【関わりを諦める】【患者に変化が見られないことに伴う不快感】が生じ,援助関係は停滞していた.一方,患者の人懐っこい性格傾向,看護師の関わりへの積極性や手応え,問題を一人で抱えない姿勢,スタッフの理解と支援などは,患者支援への促進要因となっていた.これらの影響が強い場合には,看護師には【トラウマのある患者を気にかける】【患者のニーズを満たす】【患者に自覚を促す】【患者の肯定的変化に伴う嬉しさや連帯感】が生じ,援助関係は発展していた.</p><p>(考察)</p><p> 援助関係が停滞する要因としては,看護師の自信のなさや無力感だけでなく,トラウマ支援に対して消極的な臨床状況も影響していた.看護師個人だけでなく,病棟や臨床現場全体でもトラウマにまつわる基本的な知識に対する教育ニーズの高さが伺えた.また,限られた入院期間も支援に影響していることから,退院後も支援を継続できるような方策も必要である.援助関係の発展のためには,看護師が意識的に患者と率直な気持ちのやり取りを積み重ねることが必要である.そのような関わりを通して,患者が自らのニーズに気づき,それを満たしていく行動が必要であり,そのために看護師に対する教育支援の必要性が示唆された.</p><p>(倫理規定)</p><p> 千葉県立保健医療大学(2018-01)と調査対象施設の倫理審査委員会(156)の承認を得て実施した.調査対象施設と研究対象者には,文書と口頭で研究の目的,方法,守秘義務,研究参加の任意性,途中辞退の権利,辞退した場合でも不利益を被らないこと,研究結果の公表について説明し同意書によって同意を得て実施した.</p><p>(利益相反)</p><p> 本論文発表内容に関連して申告すべきCOI状態はない.</p>

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