パーキンソン病における難治性排尿障害に対する新規脳深部刺激療法の開発

DOI
  • 山本 達也
    千葉県立保健医療大学リハビリテーション学科作業療法学専攻 千葉大学医学部附属病院脳神経内科
  • 杉山 淳比古
    千葉大学医学部附属病院脳神経内科

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抄録

<p>(緒言)</p><p> パーキンソン病(Parkinson’s disease:PD)は動作緩慢を主体とし筋固縮,安静時振戦を主徴とする神経変性疾患であるが,運動症状以外に多彩な非運動症状を呈することがしられており,特に排尿障害は患者のQOL(quality of life)を大きく損なうことが知られている1).</p><p> 進行期パーキンソン病では運動合併症に対し脳深 部刺激療法(Deep Brain Stimulation:DBS)が行われ,運動合併症は劇的に改善する.PDの排尿障害は難治性であり薬剤抵抗性のことも多いが,DBSが排尿障害に対し有効であるとの報告が散見されている.PDの排尿障害は中枢神経障害が原因と考えられ,DBSが排尿中枢の働きを変化させることで排尿障害を改善できる可能性が考えられる2).</p><p> PDの難治性排尿障害の治療開発にあたり,DBSが排尿障害を改善させるメカニズムの解明が重要と考えられたため,パーキンソン病モデルラットを作成し検討した.</p><p>(研究方法)</p><p> PDモデルラットは正常ラットにドパミン神経毒である6-hydroxydopamine(6OHDA)を内側前脳束に注入して作成した.</p><p> 実験は正常ラット6頭,PDモデルラット6頭を用い実験を行った.実験はウレタン麻酔下で膀胱に内圧測定用のカテーテル,重要な排尿中枢として知られている内側前頭前野(medial prefrontal cortex: mPFC)に細胞外電位記録用電極と細胞外液採取用透析プローブを刺入し,視床下核(subthalamic nucleus: STN)に刺 激電極を刺入して行った.</p><p> STN-DBS刺激前(30分),刺激中(30分),刺激後(30分)でmPFCの細胞外電位測定,細胞外液採取を行い刺激の影響,膀胱内圧との関係を検討した.</p><p>((結果)</p><p>STN-DBSは正常ラット,PDモデルラットともに膀胱収縮間隔を有意に延長した.STN-DBSはmPFCの細胞外電位の8-13Hzの周波数帯(α波)のパワーを正常ラットでは有意に低下させ,PDモデルラットでは有意に上昇させた.またSTN-DBSにより正常ラットではmPFCのセロトニン,セロトニン代謝産物,ドパミン代謝産物が有意に減少し,PDモデルラットではレボドパ,ドパミン,セロトニンとそれらの代謝産物が有意に減少していた.</p><p>(考察)</p><p> 本研究によりラットにおいてSTN-DBSはmPFCのα周波数帯のパワーを変化させることで膀胱収縮間隔を調節している可能性があることが示唆された.またmPFCに豊富に存在するカテコラミンも膀胱収縮間隔の変化に関与している可能性が示唆された.更に正常ラットとPDモデルラットでmPFCのαパワー,カテコラミン濃度の反応性が異なることから正常と病的状態では排尿中枢の働きも異なることが示唆された.これらの結果からSTN-DBSの刺激パラメーターをうまく調節することでmPFCの神経活動を調節し,ヒトにおけるPDの排尿障害も改善できる可能性があると考えられた.</p><p>(倫理規定)</p><p> 本実験は国立大学法人千葉大学動物実験規定にもとづく動物実験委員会に承認されて行ったものである(動1-421).</p><p>(利益相反)</p><p> 開示すべきCOIはない.</p>

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