東京湾における海底近傍のガス層の分布と音響散乱現象との関連性について

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  • Distribution of gas layer near the seafloor in Tokyo Bay and its relation to acoustic scattering phenomena.

抄録

<p>東京湾は世界でも有数の船舶輻輳地域であり,かつ漁業活動が盛んである.そのため,地震探査やボーリングなどの海洋調査の実施が困難で,首都圏に位置しながら,その地質情報は著しく少ない.1980年代から,海上保安庁水路部による反射法地震探査によって,海底下約100 mまでの詳細な地下構造が明らかにされてきたが,湾中央部から北部では,海底下約10 mおよびそれ以深に音響散乱が広範囲に確認され(加藤,1984),依然として地下構造の全貌は不明のままである.2000年代からは、海洋生態系への環境負荷の懸念から爆破型震源の使用が制限され,東京湾でも,地震探査がほとんど行われなくなった.すなわち,東京湾北部は,一部海域が地震探査の空白域となっている(鶴ほか,2021). 本地域の音響散乱について、その要因は古東京川の礫層(中条,1962),沖積層や埋没谷を埋積する軟弱層(菊池・菊池,1991),あるいは堆積物中のガス(たとえば,岩淵ほか(1998))等の指摘があるが,明らかではない.  そのような中,Tsuru et al(2019)では,2017年12月,東京湾北部において,環境配慮型震源の水中スピーカーを用いた地震探査が行われた.その結果,浦安沖の海底下約7~8 mにガス層の存在を示す極性が反転した強振幅の反射波が観測された.また,地震探査データの速度解析結果からは,その下位に,低速度層が存在することが示され,ガスの存在が指摘された.さらに採取されたガスの組成分析から,96.8 %がメタンであることが明らかとなっている.このメタンガスの成因は,堆積物中の微生物によるもの又は,南関東ガス田由来の水溶性天然ガスが深部から移動してきたものと考えられている. しかし現在も,東京湾北部のガス層の詳細や音響散乱との関連性及び,その層序は未解明のままである.そこで,本研究では2017年から2022年までの東京海洋大学による水中スピーカーを用いた地震探査のデータから,これらについて検証を行った, まず,最大で海底下約60 mまでの詳細な層序が明らかとなった.本研究において,最上位に位置し,海底面と平行な成層した反射面を持つ層をT1層と定義する.続けて,T1層の下位に位置し,起伏のある強い反射上面で特徴づけられる層をT2層と定義する.それ以下には地層境界を反映したような反射波は確認できなかった.T1層は湾中央部から北西部で厚く,最大25 m以上の層厚を持つ.一方で,湾中央部に向けて層厚を減じる傾向にある.比較的水平な成層構造が発達している点や,大きな河川の多い湾北西部で層厚が増すことからも,第四紀完新世の沖積層である有楽町層に相当する.T2層は湾中央部で最も浅くなるが,湾中央部から南方では,再び深度を増し,丘のような形態を呈している.その反射上面は,段丘堆積物の削剥された地形を特徴的に捉えており,第四紀後期更新世の埋没段丘堆積層に相当する. 次に,東京湾北部の広範囲で負の極性を示す反射波及び,その下位に低速度層が確認できた.これにより,ガス層の分布と,一部でその層厚が明らかとなった.その分布は湾北西部に偏っており,海上保安庁によって報告された音響散乱層の分布(菊池・菊池,1991)とも重なる.さらに,この反射波は,幾つかの特定の層で確認できることから,ガスの集積が複数の時代で行われている,または深部から上昇している可能性が示唆される. 本講演では,東京湾北部の浅部の層序とガス層の分布及び音響散乱との関連性ついて議論する. 引用文献 岩淵 洋・西川 公・野田直樹・田賀 傑・雪松隆雄,1998:東京湾北部の海底断層調査,水路部技報,16,85–88. 加藤 茂,1984:東京湾の海底地質構造,地学雑誌,93,119–132. 菊池真一・菊地隆男,1991:マルチチャンネル反射法音波探査記録からみた東京湾底浅層部の地質構造,水路部研 究報告,27,59–95. 中条純輔,1962:古東京川について ―音波探査による―,地球科学,59,30-39 Tsuru T., K. Amakasu, J.-O. Park, J. Sakakibara and M. Takanashi, 2019: A new seismic survey technology using underwater speaker detected a low-velocity zone near the seafloor: an implication of methane gas accumulation in Tokyo Bay, Earth Planets Space, 71–31. 鶴 哲郎・竹内 賢太郎・板橋 哲也,2021:練習艇「ひよどり」によって発見された東京湾北部の海底ガス集積層,石油技術協会誌,86,105–111.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390295658310489216
  • DOI
    10.14863/geosocabst.2022.0_286
  • ISSN
    21876665
    13483935
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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