Re-evaluations of sedimentary environment and redox conditions in the Lower Triassic Osawa Formation: a likely scenario that hyperpycnal flows induced oxygen-poor conditions on the shelf setting

DOI

Bibliographic Information

Other Title
  • 下部三畳系大沢層の堆積場と酸化還元環境の復元:頻発する洪水流がもたらす沿岸域の貧酸素化メカニズム
  • 「日本地質学会優秀ポスター賞」受賞

Abstract

<p>ペルム紀末の大量絶滅直後の回復期である前期三畳紀の生物とその適応放散様式は,中生代以降の多様化や,現在の生態系を主に構成する現代型動物群を理解するうえで重要である.前期三畳紀の生物相の回復は,海の貧酸素環境と密に関連するため,各海域,各堆積場で,どのような酸化還元状況であったかを明らかにする必要がある.南部北上山地に分布する下部三畳系大沢層は,岩相と産出する化石に基づいて堆積場が貧酸素環境であったことが知られており,前期三畳紀の生物の適応環境を考えるのに適している.しかしその堆積環境は,外側陸棚から深い海底扇状地まで多様な解釈がなされ,いまだ共通見解に至っていない(例えばKawakami and Kawamura 2002).そこで本研究は,前期三畳紀に認められる生物の適応放散様式を理解することを目指して,宮城県本吉郡南三陸町歌津舘崎地域に分布する大沢層の詳細な岩相・堆積相・生痕相解析,貧酸素の指標となるフランボイダルパイライト解析を行った.得られた結果を基に,堆積環境を再解釈するとともに,大沢層堆積時の海底および水柱の酸化還元状況を復元した.</p><p> 岩相解析の結果,先行研究で「laminated mudstone」とされた本地域の大沢層の泥質岩相は,薄いイベント性の砂岩が泥岩中に頻繁に挟在した極薄の砂泥互層であることがわかった.さらに,泥質岩相に挟在する比較的厚い砂岩層は,タービダイト砂岩に加え,トラクション流の影響を受けて堆積したイベント性の砂岩であることが明らかになった.このトラクション流でできた砂岩層の多くは侵食面を伴い,頻繁に級化―逆級化構造のセットを呈するため,ハイパーピクナル流に由来することが示唆される.また,大沢層上部でみられる泥質岩相中には,植物片やポリフランボイド状のパイライトが多量に含まれる.大沢層の下位層にあたる平磯層が,ファンデルタを後背地とするセッティングで堆積したことを考慮すると(例えば鎌田・川村 1988),砂質岩相および泥質岩相中に含まれる無数の薄いイベント性砂岩層は,後背地からプロデルタ(外側陸棚)に相当する大沢層に豊富な砕屑物供給があったことを示唆する.また,砂質岩相から推定されるデルタフロント堆積物の崩壊によって生じた混濁流や,後背地に存在した河川の洪水によるパイパーピクナル流は,堆積場への豊富な泥や有機物供給を促進したと考えられる.</p><p> 生痕相および生物擾乱強度の解析に基づくと,大沢層下部から中上部にかけて生物擾乱強度が劇的に減少することから,大沢層堆積場のある深度において,底質に酸素―貧酸素の急勾配があったことが示唆される.これは,底質の酸化還元状況の指標となるフランボイダルパイライトが豊富に含まれることからも支持される.また,直径6 μm以下のフランボイダルパイライトが豊富に含まれることから,底質だけでなく,水柱でも酸素に乏しい環境が断続的に発生していた可能性も見えてきた.</p><p> 以上の検討から,大沢層の堆積場は,河川の洪水で発生したハイパーピクナル流が頻繁に流入するプロデルタ(外側陸棚)であることがわかった.このハイパーピクナル流が陸から多量の有機物を供給し,結果的に底質の貧酸素環境を生み出したと考えられる.大沢層が形成された前期三畳紀は,温暖化が進んでいたことが知られている.一般的に温暖化は陸域の風化侵食作用を促進させることを考慮すると,大沢層で認められたハイパーピクナル流が頻発するイベントは,沿岸域で起こる汎世界的な貧酸素化イベントの一端を垣間見ているのかもしれない.</p><p></p><p>引用文献</p><p>Kawakami, G. and Kawamura, M., 2002. J. Sediment. Res., 72, 171–181.</p><p>鎌田耕太郎・川村寿郎, 1988. 月刊地球, 10, 494–498.</p>

Journal

Details 詳細情報について

Report a problem

Back to top