宮城県角田市における技術導入からみた水稲作経営体の存続要因

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  • Survival factors for rice farmer from a viewpoint of technology introduction in Kakuda city, Miyagi Prefecture

抄録

<p>1.研究課題と研究対象地域 </p><p> 本研究は宮城県角田市を事例に,大規模水稲作経営体の農業経営における技術導入に着目し,技術導入の目的と効果,導入プロセスを検討することで,水稲作の存続要因の一端を明らかにすることを目的とした.</p><p> 角田市では近年,農業経営体数の減少が続いている一方で,農地集積などにより1経営体あたりの耕地面積が拡大している.また,角田市は宮城県内の中でも大豆など米以外の作物への転作割合が低く,水稲作経営における技術導入に着目するうえで,適切な地域といえる.</p><p> 本研究では,2021年11月~2022年11月にかけ,角田市役所農林振興課および12の水稲作経営体に対し聞き取り調査を実施した.</p><p>2.水稲作経営体による技術の導入 </p><p> 角田市では市営または県営の圃場整備事業が1970年代ごろから実施された.市内における圃場整備済みの水田は約2,751haであり,市内における水田の65.9%である.1990年以前に圃場整備事業が開始された地域では,水田1枚あたりの面積が10a~30aと狭いため,機械の大型化による作業の効率化が困難である.このため,農地集積の進んでいる地域に圃場を所有する経営体は,「合筆」と呼ばれる隣り合った2枚以上の水田を1枚にする作業を実施することで,作業の効率化を目指している.</p><p> 経営規模を拡大している水稲作経営体は,その経営維持のためにスマート農業をはじめとした,さまざまな農業技術を導入している.これらの導入の背景としては,人的要因と土地的要因がみられる. </p><p> 人的背景では,経営規模拡大への対応として,作業の省力化や労働力の確保が導入理由として挙げられている.例えば,直進アシスト機能付き田植え機の導入は,組合員や家族といった労働力の効率的な活用につながっている.</p><p> 土地的背景は,農地集積により土壌や圃場の面積といった圃場条件が多様化したことへの対応が導入理由として挙げられる.例えば,レーザーレベラーを用いた「合筆」による作業工数の削減などの経営効率化や,広大な圃場でのUAVを用いた防除などが挙げられる.</p><p>3.技術導入のプロセス </p><p> これらの技術の導入プロセスは,認知段階と検討段階の2段階に分類される.導入プロセスにおける認知段階では,主に展示会や経営体間での交流により技術の存在を認知する能動的認知と,農業機械メーカーの営業担当による宣伝により認知する受動的認知の2つが挙げられた.特に農業機械販売店や農業協同組合の主催する農業機械の展示会は,経営主やその家族,法人であれば従業員にとって,新しい農業技術を知る場所としての意味を有しているといえる.</p><p> 技術を認知した経営体は,技術の導入前に農業機械メーカーの所有する「実演機」を借用し,自身の農業経営や圃場条件に合致した技術であるか評価したのちに導入している.</p><p> 以上のことから,技術導入は大規模水稲作経営体の存続要因の一部となっており,「認知する場所」と「試す機会」の両者こそ,技術導入を可能にする地域基盤として重要であるということが明らかとなった.</p><p> スマート農業をはじめとしたさまざまな技術の導入は,経営体の経営維持につながっており,これは日本における農業の維持・存続につながっていくと考えられる.その中で,今回事例として取り上げた角田市では,農業機械メーカーおよび販売店,そして県レベルの農業協同組合といった組織・団体による各種営業・営農支援活動などが,経営体による水稲作経営を支えていた.技術の普及にかかわる組織・団体は,今後も実演機の貸し出しや各経営体に合わせた営農・技術情報の提供を拡充することにより,経営体を支える必要がある.</p><p> 本研究では角田市に水稲作経営体の存続について,農業技術の導入を指標に検討した.しかし水稲作の存続には,技術導入以外にも耕畜連携や出荷先の多様化,農地集積など様々な要因があると考えられる.本研究にて検討には至らなかったこれらの存続要因については,今後の課題としたい.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390295669572552832
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_100
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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