新型コロナウイルス感染症の影響による大都市圏と地方の旅行流動に関する地域差

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  • Urban-rural disparities in travel flow due to the impact of the COVID-19 pandemic

抄録

<p>新型コロナウイルス感染症が中期的・長期的に地域にどのような影響を与えるかについて,多くの研究がなされている。その中で,空間的に差異が現れる新型コロナウイルス感染症の影響として,都市と地方の旅行に関する地域差をとりあげた研究がある。たとえばZeljković(2022)では,セルビアを対象として分析し,都市と地方では旅行に関するリスク認知にはほぼ差はないものの,旅行の実施については都市の方が地方よりも多い結果となった。Lin et al. (2022)は,中国杭州市に到着する旅行に関して,空間的相互作用モデルを適用して分析した。その結果,都市の方が衛生対策が進んでいるため,都市よりも地方から杭州市への移動が多い傾向がみられた。上記の研究結果のように,新型コロナウイルス感染症の旅行流動への影響は,日本でも空間的に一様ではないと考えられる。本研究は,日本国内の旅行流動を対象として,都市と地方の地域差を明らかにすることを目的とする。 分析に用いるデータは,株式会社ドコモ・インサイトマーケティングのモバイル空間統計を利用した。対象期間は,2019年1月~2021年12月までである。分析の単位は,新全総の頃に設定され,近年まで国土交通省の統計データが集計されている単位である生活圏を用いる。生活圏は日本全国に207設定されており,都道府県よりも狭く,市町村よりは広い範囲の日常生活圏である。本研究では,この生活圏の外への移動を旅行として分析する。 最初に,都市階層間の旅行流動を集計した。その結果,都市の階層が高い方から低い方への流動と比べて,都市の階層が低い方から高い方への流動は,新型コロナウイルス感染症の流行後により大きく減少していることが分かった。この都市階層間の旅行流動の非対称性は,三大都市圏と広域中心都市(札仙広福)の間などでも確認できる。また,休日の流動の方が平日の流動よりも大きく減少している。 次に空間的相互作用モデルにより,三大都市圏と地方の間の旅行流動を分析した。その結果,三大都市圏を発地とする流動,地方を発地とする流動のいずれとも,新型コロナウイルス感染症の流行後に距離の抵抗が大きくなり,短い距離の流動が増えていた。一方で,人口規模の効果については,三大都市圏と地方で異なる結果となった。すなわち,三大都市圏を発地とする流動では,新型コロナウイルス感染症の流行後も変化がないのに対して,地方を発地とする流動では,人口規模が流動に与える効果が小さくなっていたのである。 各生活圏に流入する旅行者の人数の変化を新型コロナウイルス感染症の流行前後で比べると,減少幅が大きいのは三大都市圏の都心部と,三大都市圏からは一定の距離が離れた観光地が目立つ。三大都市圏の都心部は人口規模の効果が小さくなったことと距離抵抗が増えたことにより流入する旅行者が大きく減少している。また,三大都市圏から一定の距離が離れた観光地では,距離の抵抗が増えたことにより流入する旅行者が減少していると考えられる。 謝辞 株式会社ドコモ・インサイトマーケティングにはモバイル空間統計の提供を受けた。記して感謝します。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390295669572564096
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_107
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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