ベトナム・カマウ省ダムドイ県の養殖エビ仲買業者におけるCOVID-19の影響

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タイトル別名
  • Impacts of COVID-19 to Middlemen in shrimp farming in Dam Doi District, Ca Mau Province, Vietnam
  • Relating to Collection Areas
  • 集荷圏との関係に注目して

抄録

<p>1. はじめに</p><p> グローバルサウスの小規模漁業の一つであるエビ養殖においては,エビの集荷に従事する仲買業者が重要な役割を果たしている.しかし仲買業者は様々な社会経済的リスクに晒されており,最近の深刻な事例としてはCOVID-19を挙げられる. 仲買業者がCOVID-19により受けた影響は,彼らの収入に直結するエビの集荷の,地理的な範囲と関係している可能性がある.なぜなら,COVID-19の流行下では移動に際しての制限が,様々な地理的範囲を単位として敷かれていたためである. 既存研究では,主に資材供給業者や生産農家,加工業者がCOVID-19により受けた影響が明らかにされているが,仲買業者が受けた影響は十分に検討されていない.そこで本研究では,エビ養殖の代表的な産地であるベトナムのカマウ省ダムドイ県を事例として,仲買業者がCOVID-19により如何なる影響を受けたのかを養殖エビの集荷圏との関係から検討した.本研究の遂行に際しては,ダムドイ県における10の仲買業者に対する聞取り調査を,2022年8月に実施した.</p><p></p><p>2. 対象地域の概要</p><p> ダムドイ県の養殖エビ仲買業者は,1次仲買,2次仲買,3次仲買の3つの階層に大別される.1次仲買は,複数の生産農家から集荷する.次に2次仲買は,複数の1次仲買から集荷するが,生産農家からの集荷を兼ねる場合もある.そして3次仲買は,複数の2次仲買から集荷するが,1次仲買もしくは生産農家からの集荷を兼ねる場合もある.</p><p></p><p>3. 結果</p><p> まず集荷圏については,自身の帰属する村内で完結するタイプ(以下,タイプⅠ)と,村を越えてダムドイ県内にまで広がるタイプ(以下,タイプⅡ)と,県を越えてカマウ省内にまで広がるタイプ(以下,タイプⅢ)の3つが見られた.集荷圏が広いほど仲買業者の階層が高い傾向にあり,タイプⅠに属するのは1次仲買のみであったのに対し,タイプⅡに属するのは1次仲買と2次仲買,タイプⅢに属するのは2次仲買と3次仲買であった.  </p><p> 次に,それぞれのタイプにおけるCOVID-19の被害状況は,以下の通りに集約される.タイプⅠについては,2020年における集荷数量・頻度および年間収入が2019年に比べて大きく減少していたが,2021年における各指標の減少幅は比較的小さかった.タイプⅡについては,2020年,2021年の両方とも各指標が大きく落ち込んでおり,2021年は2020年に比べて減少幅が大きかった.また,両年における各指標の減少幅は,階層の低い仲買業者において大きかった.タイプⅢについては,タイプⅡと同様の傾向を示していた. </p><p></p><p>4. 考察とまとめ </p><p> 同一の村内での流通活動および村を越えた流通活動は2021年9月のロックダウン以外の行動制限において,県を越えた流通活動は2020年4月および2021年7~8月のロックダウンと,2021年9月の行動制限において,それぞれ規制されていた.こうした状況とエビの集荷数量が減少した理由を踏まえ,各タイプの仲買業者においてCOVID-19の被害が生じた背景を考察する.  タイプⅠについては,その全てが集荷数量の減少の理由として,2020年のロックダウンを挙げていた.これらの仲買業者において,流通活動が規制されていなかった2020年に深刻な被害を受けた背景としては,ロックダウン期間中に外出することの心理的な抵抗を考えられる.タイプⅡについては,その過半が集荷数量の減少の理由として,2020,2021年のロックダウンと,ロックダウン以外の行動制限を挙げていた.これらの仲買業者は両年のロックダウンの対象外であったことを踏まえれば,2020年における被害の背景にはロックダウン中への外出に対する心理的抵抗を,2021年における被害の背景にはロックダウン中への外出に対する心理的抵抗とロックダウン以外の行動制限の影響を,それぞれ挙げられる.タイプⅢについては,その全てが集荷数量の減少の理由として,ロックダウン以外の行動制限を挙げていた.同制限では県を越えた流通が制限されていたため,タイプⅢはこの影響を大きく受けたといえる. また,タイプⅡとタイプⅢにおいて階層の低い仲買業者ほど大きな被害を受けていた背景には,移動に必要な許可を得る際の経済的な負担を指摘できる.先述の制限下において流通活動を行うためには3日に1度PCR検査を自費で受け,陰性であることを証明する必要があった.その費用負担により,収入が低い低階層の仲買業者においては,エビの集荷を十分に行えなかったと推察される.  </p><p> 以上から,集荷圏が比較的狭く行動制限が課せられていなかった仲買業者は心理的な抵抗を背景として,集荷圏が比較的広く行動制限が課せられていた仲買業者はその拘束力を背景として,養殖エビの集荷が不十分となり収入の減少に直面したと結論付けられる.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390295669572622080
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_241
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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