福岡県における水道事業の広域再編・連携の展開

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  • Regional reorganization and cooperation of waterworks in Fukuoka prefecture

抄録

<p>1 はじめに</p><p>  2000年代前半を中心とした「平成の大合併」により,地方自治に係る空間的な枠組みは大きく変化したが,それ以後も地方行政の実施体制をめぐっては,行政分野ごとに再編の取組が進められている。この行政分野の特性を反映する形で,その再編のあり方は大きく異なっている。</p><p> 本報告で取り上げる(上)水道事業は,水源から各利用者までを管路で接続するという大規模な装置産業であることから,その空間的な枠組みが他の行政分野のそれと大きく異なる事例もみられる。現在検討されている広域再編の取組においても,都道府県によっては,議論の枠組みに用いられる「圏域」が,一般的な行政上の結びつきとは異なる形で設定されている(美谷2021)。</p><p> 本報告では,政令指定都市から小規模町村に至るまで,水道事業者の規模に相違があり,かつ近年多様な「広域化」の取組がみられる福岡県を事例として,水道事業の広域再編・連携の展開について整理する。あわせて,現在広域再編の取組が進行中の田川地域を取り上げ,その再編過程の特徴を検討することを目的とする。 </p><p>2 水道事業の広域再編の動向</p><p>  人口減少や少子高齢化の進展とともに,高度経済成長期に整備された各種水道施設の老朽化が顕著な問題となり,2000年代に入ると,従来の「事業統合」に加えて,国は多様な形での水道事業の広域化を目指すようになった。</p><p> 2014年の国通知は,都道府県単位で水道事業の運営基盤強化の方向性を示すことを求めており,2018年の水道法改正では,都道府県の責務の1つに水道事業者間の広域的な連携推進が位置づけられた。さらに,2022年度末までに,具体的な再編の組み合わせに基づく効果のシミュレーションなどを示した「水道広域化推進プラン」を策定することとされ,各都道府県で作業が進められている。</p><p>3 福岡県における水道事業の広域再編・連携の展開 </p><p> 福岡県においては,2021年度現在,全60市町村のうち56市町村において,50の水道事業が運営されている。末端給水を行う水道事業体のうち,広域行政組織である水道企業団は4と少ないものの,この50事業のうちの38事業では,用水供給事業などから何らかの形で浄水を受水しており,既に一定の広域化が進展しているものと考えられる。</p><p> 県内ではとりわけ,北九州市が広域化に積極的に取り組んでおり,2000年代半ば以後,2町との「事業統合」,用水供給事業設立による2市2町1組合への浄水の供給などを実現した。また,近隣事業体との緊急時連絡管の接続や技術協力協定の締結など,多様な連携の取組を進めている。ほかにも県内では,複数の水道事業体による施設の共同保有やシステムの共同化の事例もみられる。 </p><p> 田川地域では,4市町での「事業統合」に向けた取組が進められているが,これは用水供給事業を実施する水道企業団に4市町の末端給水事業を「垂直統合」する形態が想定されている。県営伊良原ダム建設事業に関連して,不安定な水源の解消などを目的に,田川地域の5市町(当時)が1989年に企業団を設立してダム建設に参画することとなり,2001年から用水供給が開始された。 </p><p> 国の広域化推進の動きを受け,企業団内部でも末端給水事業を含めた水道事業の再編が議論されるようになり,企業団の構成市町による勉強会が設置された。統合の効果のシミュレーションなどが実施され,2010年度にはその成果として「統合化基本構想」が策定された。この基本構想の結果を活用しながら,構成市町の首長や議会への統合のメリットの説明が進められた。2018年度に統合の前提となる企業団の規約改正が議決され,首長間での統合に関する協定が締結された。 </p><p> 2019年度には,現在の田川広域水道企業団に名称が変更され,企業団が用水供給事業と4市町の末端給水事業を運営する「経営の一体化」が図られた。あわせて,2023年度からの「事業統合」に向けた準備が開始された。事業統合に際しては新たな浄水場を建設し,小規模水源の解消や施設の統廃合を進めることで,より安定的な給水と事業に係る費用の抑制が実現するものとされている。</p><p> 田川地域では,従来からの用水供給事業の実施を通じた近隣市町の首長間の課題認識の共有が,事業統合という高次な広域再編の実現に結びつく一因になったものと考えられる。さらに,顕著な人口減少や相対的に高額な水道料金体系という財政的な基盤の脆弱さが,経営を脅かす施設の老朽化などへの対応を特に困難なものとしていた点も,早い段階で広域化に至った背景として位置づけられよう。</p><p>参考文献</p><p>美谷 薫 2021.水道事業広域再編に係る都道府県の「圏域」設定の特性.福岡県立大学人間社会学部紀要30(1):141-154.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390295669572642432
  • DOI
    10.14866/ajg.2023s.0_291
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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