<論文>江馬務の〈歴史の可視像化〉論 --京都画壇と風俗研究会の萃点を論点として--

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書誌事項

タイトル別名
  • <Articles>'Visualization of History' by Tsutomu Ema: On the Cultural Interaction between Kyoto Painting Circles and Fuzoku Kenkyukai (Society for Changing Customs)
  • 江馬務の〈歴史の可視像化〉論 : 京都画壇と風俗研究会の萃点を論点として
  • コウバム ノ 〈 レキシ ノ カシゾウカ 〉 ロン : キョウト ガダン ト フウゾク ケンキュウカイ ノ スイテン オ ロンテン ト シテ

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説明

風俗史研究者として知られる江馬務(1884-1979)の主要な研究は,『江馬務著作集』に結実している。しかし,江馬が研究に基づいて実践した活動や社会のニーズに応じて取り組んだ事業,すなわち実物の装束を用いた時代扮装実演,映画の時代考証,祭礼や年中行事の考案ならびに指導等について著作集から得られる情報は限定的である。したがって彼の社会的活動に関しては研究の蓄積が乏しく,今日において正当な評価がなされているとは言い難い。梅棹忠夫は江馬の成し遂げた仕事を〈歴史の可視像化〉と評しているが,その意味するところを具体的に示してくれているわけではない。また,江馬の研究活動に見られる特徴として,ビジュアル性の重視を指摘する先行研究がある。確かに江馬の著作物には図版が多用されており,それは風俗研究に係る概説書の中で異彩を放っている。しかし,なぜ彼が研究活動においてビジュアル性を重視するようになったのかについては詳らかでない。この点を明らかにし,〈歴史の可視像化〉の実像に迫ることを本稿の目的とした。本稿では,江馬の研究活動がビジュアル性を重視する方向に導かれていった契機として,京都市立絵画専門学校において聴講生等に資する講義を模索する中で視覚に訴えた伝達手法を見出したこと,京都画壇を担う少壮の画家たちと様々な協働事業に取り組んだこと,映画等の視覚メディアから時代考証に係るブレインとして重用されたことを指摘した。また,画家をはじめ多様な文化人が交流する萃点となった風俗研究会の活動や事業を具体的に検討することにより,梅棹が評した〈歴史の可視像化〉の実像に迫った。結論として,江馬にとって〈歴史の可視像化〉は,歴史や風俗を考証のもとにビジブルまたはタンジブルなものとして再現して示すことであり,それは画家をはじめとする様々な立場の人に自らの研究成果を伝えたり共有したりするためのアウトプットに係る1つの手法であったと論じた。そしてそれは京都画壇の画家たちとの関わりによって彼が構築した研究手法であると結論付けた。

収録刊行物

  • 人文學報

    人文學報 120 9-46, 2023-02-28

    京都大學人文科學研究所

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