頸部の前後屈による頸部アライメントの変化が静的バランス能力に影響するか
説明
<p>【はじめに,目的】</p><p>安定した立位保持や歩行には,バランス能力を必要とするため,日常生活を送るうえで重要な要素のひとつである.バランス能力の向上は転倒予防につながり,骨折などの傷害発生を防ぐ(Dalvin et al,2004).バランス能力を決定する大きな要因のひとつに姿勢のアライメントがあげられる.身体各部位の位置関係によって姿勢のアライメントは形成されており,特に頸部の位置は,頸部に筋紡錘をはじめとする固有感覚受容器が多く存在するため重要とされている(渡邊ら, 2016;Kulcarni et al, 2001).そこで本研究は,片脚立位時に頸部肢位を前屈位,中間位,後屈位に変化させることで,重心の移動量が変化するかを確認し,バランスを崩しやすい頸部肢位を調査し,転倒予防の一助とすることを目的とした.</p><p>【方法】</p><p>対象は,過去6ヶ月以内に頸部や下肢に整形外科的疾患がない健常成人男女各15名(男性:年齢21.7±1.2歳,身長169.2±6.2 cm,体重60.5±5.5 kg,女性:年齢21.7±1.0歳,身長157.8±4.1 cm,体重50.5±4.5 kg)とした.測定肢位は,重心軌跡測定器(竹井機器工業株式会社)上で手を胸の前で組み,非支持脚を膝関節軽度屈曲位とし,前屈位,中間位,後屈位の3条件で実施した.測定項目は,開眼片脚立位姿勢を20秒間保持した際の単位時間軌跡長と外周面積とした.各測定条件の順番はランダムに設定した.それぞれの肢位にて課題を3回ずつ行い,統計学的解析には3試行の平均値を用いた.正規性の確認にShapiro-Wilk検定を行い,3条件間の比較にはFriedman検定を用い,事後検定としてBonferroni法による多重比較検定を実施した.有意水準は5%とした.</p><p>【結果】</p><p>頸部肢位を変化させた際の単位時間軌跡長は,中間位と比較して前屈位で3.6 mm/s,後屈位で7.5 mm/s有意に増加した(p<0.01).また後屈位の単位時間軌跡長は前屈位に対して3.9 mm/s有意に高値を示した(p<0.01).頸部肢位を変化させた際の外周面積は,中間位と比較して前屈位で51.5 mm2,後屈位では150.3 mm2有意に増加した(p<0.01).また後屈位の外周面積は屈曲位と比べて,98.8mm2有意に高値であった(p<0.05).</p><p>【結論】</p><p>本研究では,健常者で頸部を前屈位または後屈位とし,片脚立位姿勢をとることで,重心動揺が増大することが明らかとなった.特に頸部の後屈位が最も大きい重心動揺をもたらす結果となった.このことから頸部の後屈位は,バランス能力の低下を誘発する可能性が示唆された.また本研究では,若年者を対象としたため,下肢筋力の低下や前庭系の変性などにより,バランス能力の低下がみられる高齢者では,さらに大きな重心動揺が確認されると考えられる(山田ら,2007).そのため,高齢者が頸部後屈位を保持することは,転倒のリスクを高くする可能性がある.バランス能力の評価に加え,頸部肢位の確認が転倒予防につながる可能性が示された.</p><p>【倫理的配慮、説明と同意】</p><p>本研究はヘルシンキ宣言に基づき,研究の目的および研究方法を口頭および書面にて十分に説明し,同意を得られた者を対象とした.なお,本研究は広島大学疫学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:E-2318).</p>
収録刊行物
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- 日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集
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日本予防理学療法学会 学術大会プログラム・抄録集 1.Suppl.No.1 (0), 66-66, 2022-12-01
日本予防理学療法学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390296354160205440
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- ISSN
- 27587983
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用可