墓の移転による死者の個性に対する意識の変化と親族組織の変化

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書誌事項

タイトル別名
  • Relocation of Graves and Changes in the Perception of the Deceasedʼs Individuality and Kinship Groups: A Case Study of Kawarayu in the Yanba Dam Submerged Area
  • ―八ッ場ダム水没地域・川原湯を事例として―

抄録

<p> 本稿は、八ッ場ダム建設計画によって水没地域となった、群馬県吾妻郡長野原町川原湯を調査地とし、墓の移転に伴う先祖代々墓の普及と墓に対する意識の変化による個々の死者の個性に対する意識の変化について分析し、それが親族組織の関係の認識をどのように変化させたかを論じることを目的としたものである。</p><p> 筆者は以前、川原湯における同族集団であるマケの関係について分析し、墓の移転に伴う墓地空間の変化と墓の物質的変化により、移転前の川原湯においてマケを統合させる重要な機能を果たしていた墓地がその機能を弱め、マケの統合を弱めることになったことを明らかにした〔渡邉 二〇二〇〕。しかし、その後の調査でマケを含めた親族組織の変化の要因はこれだけでなく、墓の移転に伴う先祖代々墓の普及と墓に対する意識の変化によって個々の死者の個性に対する意識が変化し、それが死者を媒介とした親族組織の関係の認識にまで影響を及ぼしていることも要因となっていることが窺われ、これに関して明らかにするために前述の目的を設定した。</p><p> そして、分析の結果、移転後は先祖代々墓の普及と墓に対する意識の変化により、移転後の川原湯の人々(他出者を含む)が個性を意識する死者の範囲が移転前と比較して狭まり、墓参の際に個性を意識する死者の範囲は自己と直接的な関わりをもった死者に限定されつつあること、また、個々の死者が個性を喪失するまでの期間が短くなったことがわかった。そして、こうしたことは死者を媒介とした親族組織の関係の認識に影響を与え、移転後はマケやシンセキといった親族組織の関係の認識が希薄化し、それは特にシンセキの関係の認識に対して大きな影響を与えたことが明らかとなった。さらに、婚入者や下位世代においてその傾向は一層進み、しかも移転前と比較して早い段階で希薄化することが予想され、中でも個人の親族関係を媒介として成立するシンセキとの関係については、移転前と比較して早い段階で消滅することが予想されるという結論に至った。</p>

収録刊行物

  • 日本民俗学

    日本民俗学 309 (0), 33-64, 2022-02-28

    一般社団法人 日本民俗学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390296973276016000
  • DOI
    10.34560/nihonminzokugaku.309.0_33
  • ISSN
    24358827
    04288653
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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