戦後農政における展開と人びとの向きあい方

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タイトル別名
  • Development in Postwar Agricultural Policy and the Peopleʼs Response: A Case Study of the “Shiwa Model of Diversified Farming” in Urushitachi in Iwate Prefecture
  • ―岩手県紫波郡紫波町片寄漆立の「志和型複合経営」をめぐって―

抄録

<p> 本稿では、戦後高度経済成長期を迎え、単一経営農業による大量生産・大量消費が急速に発展した日本の農業において、あえて複数の産業を組み合わせる「志和型複合経営」を実施した岩手県志和地区に着目する。一見時代に逆行している経営方法をなぜ選択したのか、ということを明らかにし、農業政策とそれに対する人びとの向きあい方についての考察を試みた。本稿では、これまで民俗学で積極的に取り上げられてこなかった、高度経済成長期における農業政策と、それに対する人びとの向き合い方を民俗学的視点から分析する。</p><p> 本稿の調査地は、岩手県紫波町片寄漆立という集落である(以下、漆立と表記)。漆立が属する志和地区では、生産基盤の改善や技術革新が展開されたが、規模拡大の限界から、志和農協によって「志和型複合経営」が提示された。これは、茸類・畜産・青果を各農家が組み合わせるという、経済性と循環性をもたせた経営方法である。その背景には、一年を通して常に生業を組み合わせ、かつ、状況に応じて柔軟にそれを切り替えるというあり方がみられた。これにより、漆立では従来の生計の立て方を活かしたかたちで「志和型複合経営」を取り入れることができたということが考えられる。</p><p> 一方で、漆立の人びとは「志和型複合経営」を画一的に実行したのかというと、必ずしもそうではない。主体的に生業を切替え、組み合わせるという方法を踏まえて展開された「志和型複合経営」であるが、実際には農家それぞれの「一選択肢」としてそれらが受容されていた。各家の労働力の問題はもちろん、その生業をめぐる人間関係の構築や、知識の応用などが重要な判断基準となり、個人による多様性をもって定着していたということが明らかとなった。</p><p> 以上より、政策の大きな枠組みと個別の生業の展開を総合的に分析する視点は、現代に生きる人びとの営みを捉える上で、非常に重要であると考える。</p>

収録刊行物

  • 日本民俗学

    日本民俗学 311 (0), 1-34, 2022-08-31

    一般社団法人 日本民俗学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390297294023324160
  • DOI
    10.34560/nihonminzokugaku.311.0_1
  • ISSN
    24358827
    04288653
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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